GEAR SIDE 本日は晴天なり。 寒くなると特訓は辛い。 お天気が悪かったりしたなら、それはもう尚更に。 「くしゅんっ!」 小さなクシャミをした僕は、冷たくてカチカチに固まってる両手を擦りながら揉む。A.Tの中の足先を動かしてみたけれど、こっちもカチカチで、まるで凍ったみたいに感覚が無くなってる。 僕はチラッと、ちょっと離れた所に居るお兄ちゃんを盗み見た。お兄ちゃんは白い息を吐きながら、降り出しそうな空を眺めてた。 「今日はもう上がるか」 別に僕の気持ちが通じた訳じゃないと思うけど、お兄ちゃんはタイミング良くそう言って僕のコートを投げてくれた。僕はかじかんだ、ぎこちない動きでそれに袖を通しながら、前を歩き出してるお兄ちゃんに急いで追い付く。 一歩分だけ後ろに付いて一緒に歩く。 鼻を啜すると、冷たい空気に刺されてるみたいに、鼻の奥が痛くなる。 ……練習が終わった後は何時もなら、「あれは駄目だ」「あそこが駄目だ」ってアドバイスをくれる筈なのに、今日はそれが無い。無いから無言で歩く。 ……有る筈のモノが無いと怖いね。 ――機嫌悪いのかな? ――明日は晴れるのかな? 爪先を見ながらそんな事ばかりを考えていたから、急にパサッと、コートのフードが被せられてちょっとビックリ。 僕はお兄ちゃんの方を見上げた。 「風邪ひくなよ」 「、うんっ」 一歩ぶん前を歩く、背の高いお兄ちゃんの顔は僕には見えない。 けど――凄く温かいや。 目線を普通にしたら、コートのポケットに隠れてるお兄ちゃんの手。 ふと思う。 ……少しだけ、少しだけ触れてみてもいいかな? ウザイって怒られるかもしれないけれど、だって、ちょっとでも良いから近付いて居たいんだ。 だから少しだけ……。 僕はドキドキしながら、目の前の袖をそっと引っ張った……。 そうしたら、ゆっくりとポケットから手が出て――払いのけられちゃうかと思って、急いで離したんだけどギュッと掴まれた。 掴まれて、そのままポケットの中に入れてくれた。 僕はまた驚いて見上げる。 お兄ちゃんは、やっぱり振り返ってはくれないけれど。 繋いでくれた手は凄く温かい。 泣きそうなくらい温かい。 ――空はどんより曇ってるけれど。 だけど本日は晴天なり。 ++++++++++ 気分的にはとっても快晴。 降るならそれは嬉し涙。 2005.01.08up。 【BACK】 |