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GEAR SIDE
それは子供のように






気付いた事がある。
ピクリともせずに眠る目の前のそいつが、深い眠りに陥る時、よく身を縮めてしまうという事だ。
今もそうだ。大の字で寝始めたかと思ったら、時期に深く深く意識を手放したのか、次第に、次第にと横向きに身を縮めていった。
そうして一人取り残されたこっちの気も、じっと見られている事にも、今はもう何も気付きはしないその寝顔は寝息さえも立てはしないから、だから咢はじっと見詰めていなければならず、その合間合間に考える事はといえば、内容的にはそう多くも無い。
専らいまは、気付いてしまったそれについてだ。(亜紀人に体を返してしまおうかとも考えたが、それは止めた)
丸くなって眠る――それは特別に珍しい事でも無いのだろうし、寝相で心理状態が解るという話も詳細は知らない、ましてや知っていたところで当てにはならないとも思う。(なら面白い程垂直になって眠れるらしい亜紀人はどうなるという話だ)
ただ、対象がいけなかった。
身を縮め顔を腕に埋もれるようにして眠り続ける樹はとても幼く、そして何処かしら淋しげに見えて奇異だ。少なくとも咢にはそう見えた。
だからじっと見た。
そう、例えば他の奴が同じ様に寝ていたとしても、それはただ“寝ている”という認識でしかない。
そんなものは気が違っても見入ったりしない。
そうじゃない。この男は何時だって不遜でありゾンザイであるべきなのだ。例え眠っていようともだ。それこそ大口を開けて喧しくイビキでもかいていればいい。
なのになんで自分が見ている時に限ってそんなふうに眠るのか。
否応無しにどうしようもなく意識を持っていかれてしまう。
終いには、ああ、子供が眠る姿とはこおいうものなのではないかなどと、実際はそんなものすら見た事も無いのに、時期にそう思い至った。
――けれども、なら自分はどうだ。
ほったらかしにされて、言い知れぬ淋しさや不安を持て余しながら、それでも息遣いに合わせて上下するほんの僅かな肩の動きに安堵している自分こそ、もしかすれば子供そのままではないのか?
…………淋しさや、不安?
――ああ。
そこまで思って漸く気付いた。
いま始めて気付いた。
――いや。漠然とは気付いていた。でも認めてしまいたくはなかった。
そしてまた、じっと見る。
――自分達は限りなく子供同士、なのか――?
それも、差し延べられる何かを待ち続けているそれだ。
咢はころんと、普段亜紀人がそうするのと同じ様に、空いている空間へと身を委ねてみた。
それでまた、ああ、と瞬きをひとつ。
意識の遠く奥の方では、亜紀人が穏やかに笑んだ気さえした。
こうすれば、聞こえないと思っていた息遣いも確かに鼓膜を震わせるのだ。
それは安らぎだ。
何かをするのでは無く、ただただ静かに寄り添い眠る……そうできればどんなに良かっただろう。
――ああそうだ。そうだよ亜紀人。
俺もずっと、こんな場所が欲しかった。

小さな息遣いをより確かめていたくて、距離を縮めて身を丸めて、そうやって静かに目を閉じていく。
それは、まるで子供の様に眠る傍らで、まるで子供の様に。





fin.



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2007.02.01up。







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あきゅろす。
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