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GEAR SIDE
明日





『俺』って誰だよ?
「これ」
両手に挟んだその伝説的アニメの、緑で丸いマスコットキャラをすぃーと、自分の顔の横に垂直移動したカラスは、
「俺様だと思って添い寝してよいぞ」
俺に向かって真顔でそうほざいた。
「……は?」
俺は己の耳を疑う。確かに此処は病室で、俺は患者としてベッドに入っちゃいるけれど、それは間違っても耳が悪いからじゃねぇ筈だ。つまり、音を発する方に問題がある。
「ほら、此処は完全看護だっつうからよ。俺泊まってやれねぇから」
今度はモジモジとちょっと体をくねらせながら、顔を少し赤らめてムフッて聞こえてきそうな口元で。
「だ か ら 。これ、俺の 変 わ り 」
ついと俺に向かって献上のポーズ。ずずいと迫ってくる物体のデコには手書きで『俺』の文字。
なるほど。
微笑んだ俺はそれをむんずと掴んで、
「てぃ!」
「っのっテメ!主からの労いの品を電光石火の如く放る下僕が何処にいやがるっ」
「ハンマーに打たれ過ぎて頭割れてんじゃねぇのか?!この爆発頭はよ?!あ?!そもそも下僕なんざいねー事に早く気付きやがれ!」
「ぐおあっ!抜ける抜ける!」
「抜いてんだよ!手術ん時に剃る手間省いてやるから今すぐこの空っぽ頭にマ○コメ味噌でも詰めて貰って来い!」
「ハゲたら俺のニット帽貸してやるよイッキー」
「ナース。ナースは何処だ?」
「クゥが巻き添え喰らってるよー?」
「僕は味噌汁は濃い目が好きだね」
喧々囂々。

――※病院ではお静かに※――


そんな感じで俺の、俺達の入院生活は幕を開いた。
散々騒いだ奴らはやっぱり帰り際にも好き勝手言いながら手を振っていて、なんでか俺と一緒にそれを見送ったカラスは、最後に放り投げたままだった緑のそれを拾って来た。
「も、大丈夫か?」
片手はポケットに突っ込んだまま、トンとシーツに置いたそれに重心がかかる。
……覗き込んで来た顔からは、もうちゃらけた空気は抜けていた。
「あ?」
「お前、ちゃんとココに居(存在して)んだから、もっと前見なきゃ」
………あ、あ。
ばかやろう。
ばか、やろう。
「『空』なら、見えて、る」
真ん前に。
霞むぐらいに。
こんなに霞む、ぐらいに。
「……なら一緒に飛ぼーぜ?」
……俺は。
応えるどころか。
俯いた。
涙が零れそうで必死に歯を食いしばってた。
カラスは暫く待って、その沈黙のまま、何も追求しなかった。ただ、ただゆっくり離れてくその先で、俺の頭を髪がくしゃくしゃになるくらい撫でただけだった。
「っばっ!!帰れこの!ファック!」
「ゆっくり休めよな」
そいつは振り上げた拳からヒラリと逃げて、痛い沈黙なんか何も無かったみたいに振り向き際に、笑って、
「明日な!」
「っお……おう」
勢いで応えた俺の方は限りなくどもってた。

「なぁ亜紀人。俺『明日』って言葉がこんなに楽しみで寂しいのなんか初めてだ」

一度覚悟した決意は呆気なく揺らいじまってる。

『消えたくない』

その後俺は、少しだけ泣いた。
重ねられる手が欲しいと、思った。





fin.



++++++++++
先に別なやつ出来ちゃった……。(苦笑)

2006.01.01up。







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