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たのしいランチのお時間です
ある晴れた麗らかなよき日。
「あっれー」
「あー、どもども」
「や、よかったらご一緒しても?」
「どぞどぞー」
一組と三組の四人は中庭にて一緒にお昼をとることと相成った。
「このシート誰が持ってきたの」
「西広だよ」
「じゃあこのブランケットは?」
「沖が気をきかして」
「「脱帽いたします」」
木彫りの長椅子がある一番暖かい周辺は女子が早々に陣取ってしまうことを知っていた西広は地べたに敷く電化製品の景品で貰ったチェックのシートを持参。緑の若葉が芽吹いてきたとはいえ侮ることの出来ない空っ風対策にブラウンの膝掛けを用意していた沖。
「沖が言うんだよ、外でお昼がしたいって。理由ウケるから聞いたげて」
「なんでなんで?」
「だって…ズルいんだもん女子ばっか外で楽しそうにお昼してんの」
「いかん、沖の乙女スキルがグングンオレにきているっ!付き合おう、沖っ」
「へっ!!?」
「あっ、この人危ない人だから近づいちゃダメだよ」
「スミマセン。うちのお父さん時々こうなんです」
向き合うように座ればシートの四方にお尻が乗っかりブランケットは余すところなく広げられた。
「そっちは?よく来るのココ」
「いやいやまさか。実はオレらも良く似たもんで」
「女子会ならぬ男子会っていう」
「うわぁ、駄菓子が大量だ」
栄口が手にした小さいビニール袋には色とりどりの砂糖菓子のような巣山の袋には昔懐かしい一口サイズのカツやヤキイカの駄菓子が入っていて四人の真ん中に雪崩の如く盛っていく。
「スゴいやっ、ハハッ!うわ楽しい」
「でしょっ!?五百円て決めて買いに行ったのに止まんないのよ」
「ヒデェのがこっそり買ったムカデみたいなんをオレの懐に忍ばせやがんのコイツ。狂気の沙汰だね、ありゃ」
「あっ!知ってるそれ、ゴムみたいなので出来ててあり得ない配色のアレだよね?」
それぞれ弁当を開けバランス良く収められた食の宝石箱に舌鼓を打てばお互いの目を確と見合いひとつ呼吸を吸う。
「「うまそうっっ!!」」
「「うまそうっっっ!!!」」
パンと小気味良い快音を打ちいっただきまーす!!と箸を持った。
「うは〜ついにやっちゃったよ部活外で」
「やりたかったけどイマイチ勇気足んなくってねぇ」
「九組フツウにやってっからね、コレ。たまたま聞いて何故かオレが照れるっつー嫌な連鎖が起きた」
「いやでもやっぱコレいい、飯うまくなんだもん」
冷たく澄んだ空気と緑の羽衣を纏いはじめた芝生に樹木。流れる切れ長の雲と果てまで続くソーダ水を含んだ煌めく空。二人より四人。会話も弾めば心も弾む。今まで気になっていたことだってすんなり口から顔を出すのだ。
「ん、あ。なぁ西広。なんで西広って勉強出来んの?」
紅鮭をほぐしながら巣山は何の気なしに問いかけた。視線はくるりと解答者へ向けられ当の本人は好物らしい駄菓子の中のよっちゃんイカに手を伸ばしたとこだった。
「オレも今まで聞いたことないや。知りたいな」
「いいねぇ質問大会?やろーやろーっ」
平たいパッケージを綺麗に裂くとそこに皆が興味を示していたとは思わず少し考えるように目線を上げて、たいしたことないよ?と前置く。
「小五の時すきだった子のタイプが勉強の出来る人だったから」
「………」
「………」
「…聞いといてなんだけど、ホントに?」
「うん」
急展開だ。まさかの返しにドワッと色めき立つ。
「えっ?結構在り来たりじゃない?」
「や、わかる。わかるよ。でも……」
彼の口から色恋の話が唐突に発せられたことに正直ビックリしたとは触れられずこぼれた鮭は白米の上でフレークのように散らばった。隣で丸い目をさらに強調させ唇でくわえたサンドイッチを解放した栄口が、でさ…と小さく呟く。
「そんな可愛かったの?」
ゲソを奥歯で噛み締めれば酸味で舌が痺れる感覚に浸りつつ、気になるの?と勿体ぶる西広にブーイング。小さく笑って話はじめる前に口の中の好物に別れを告げた。
「可愛かったよ。中二の春まで一筋で、ガムシャラに勉強したね。デートとか誘えばよかったんだろうけどさ、勇気ないし。回りくどいけど勉強していい点数とることだけが唯一のアプローチ法だった。で、ついに全国模試で一位とってさ。もうそれを知ってほしくて初めて彼女を呼び出したわけ。そしたら、そうなんだぁ、で終了……って、固唾を飲んで見つめすぎだから気楽に聞いてよ…なんか恥ずかしくなってきたじゃん……」
箸を握りしめたままの真っ直ぐな目線を浴びていることに西広の顔が熱で灯り頬をさする。
「……いや…色々驚きのネタが盛り込まれてて…」
「つーか西広が全国模試一位の方だったとは…」
「っで!?その子とは結局どーなったの?」
「告白したわけじゃないから答えはないけど…その後すぐ先輩と付き合いはじめたって聞いたから結局ダメだったろうね」
勉強は理解が深まると楽しいから続けたよ、と羽のように笑った西広は瞬間肩をビクつかせた。真剣だった彼らの眼は赤く染まり潤む目頭を押さえ身体を小刻みに揺らしているのだ。
「切なくて…いい話…っ」
「ピュアい西広くんよ幸あれっ」
「元気出してっ天むすあげるよ!」
オレはイチゴあげる!!オレ肉巻き!!!と開けた弁当の蓋に称賛品が盛られハタと自分が如何に甘酸っぱい少年期を喋り倒したかを悟らさせられ一気に上気した熱が頭から湯気をたて果てしない羞恥心を生む。
「わぁっ!!やめてよもうっオレばっか狡い!!巣山もじゃあ何か喋ってっ」
耐えきれず矛先を投げられた巣山は無防備な的となり、へ?と狼狽えた。
「聞きたいっ巣山の初恋話」
「えっ!?ねぇよっそんなん」
「うそっ!わかるって言ったオレ喋ってるとき」
「いっ!?……たなぁ…確かに」
腕組みをし全く箸の進まなかった弁当とにらめっこをするも話題を振った張本人であることから言わざる得ない状況下であるこは変わらない。ため息に諦めを溶かし、中一、とぞんざいに投げた。
「保険医の先生」
「わわっアダルティ」
「ダンディズム巣山の発端だね」
「ムーディかオレは」
「で?なんで」
「簡単。エロかったから」
「………」
「ほーら黙った。だから言いたかなかったんだ」
「あっ!ゴメン…昼間からピンク系の話は身が持たないので…」
「何の想像をしとんじゃっ栄口!ちっげーわ、ピュアいわオレもぉ!」
「ピュアいのっ!?なら聞きたいっ」
「よーし。入学式しょっぱな緊張で階段すっ転んで怪我したんがキッカケ。細い指の先で爪がチカって光って触るとこ全部優しくてさ。今まで大人の女ってオカン回りのささくれだった指しか見てなかったオレにとっちゃ衝撃よ。で生憎身体の頑丈なオレは怪我したいが為に運動部を選び、中でもすきな野球部に入り、執拗に努力と託つけて怪我をし、薬品の匂いが染み付いた部屋であの綺麗な白い手を独り占めしてた。したら何日間か先生休んでさ、やっと逢えたと思ったら左手の薬指にピンクゴールドのリング。泣いたねぇあの時は……ってな!ピュアかろうよ……あ、れ?」
沈黙が包む。熱弁した巣山は期待する反応を遥か上回ることを少なからず確信していたのだがこのあまりに冷めた反応。憐れむ視線。握った拳が幾ばくか汗ばんでいくのを感じる。
「ねぇ…巣山」
「……はい」
「失礼を承知でお伺いしますが…」
「なんなりと…」
「その先生の顔って覚えてる?」
「え、顔?や…もちろ……………顔?」
アレ、ちょっと待てよ?顔?と唸りだした巣山に溜め息の嵐が耳に痛い。青ざめていく表情に沖がやんわりとトドメを刺した。
「巣山……それって結論性癖の話じゃないかな?」
パラパラと清い何かが見事に頭から欠落していく。思い出せない初恋だと信じていた彼女の顔、声、表情。確実に言えることは日により微妙に変化していた爪の色のみ。
「巣山、心から願うよ。君に幸あれ」
ただただ煌めくばかりに尊い微笑みを浮かべる友人のその気持ちが胸に痛く。蓋に寄せられたレタス、ネギ、バレンが彼らの本音を物語っていた。この初めてにして苦い思い出を刻むであろうランチタイムが終るまであの蒼天に届けと祈るよ。
君に幸あれ。

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あきゅろす。
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