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ひざまくら希望
寝れません。全く、これっぽっちも眠たくない。
きっとそう、昨日コーヒーの上手な飲み方を試しちゃったのが悪かったんだ。15分以内にコーヒーを飲んで寝ると熟睡できるってヤツ。したら、メチャ見事に完璧なまでの安眠。なんこれスゲくない?まぁオレそんな不眠で悩まされたことないけどね。つってそんなこといいんですよ。今はそう、この状況。カフェインが今頃オレの身体を巡っちゃってるんでしょうかね。もっとミルク入れときゃよかった。
パッカァと間抜けに口を空け水谷は格技場の天井を眺めた。今は12:30過ぎ。一通り思考を巡らせ左右に目を振れば各々自由にマットに寝そべり小さな呼吸音と規則的に上下する姿が映る。新人戦、秋大を肥やしに甲子園優勝もとい全国制覇を全員一致の目標として走りはじめた西浦野球部は睡眠という時間がどれ程貴重で身体に必要なことか知っている。さながら眠れる獅子のようなこの風景。微笑ましいことこの上ないのだが水谷は目をパチクリさせながら妙な焦りを抱いていた。
保育園とかお昼寝の時間でオレ一人寝付けなくって先生まで寝てっときのあの孤独な感じに似てるよぉ。
うー…と小さく唸る。身体はこんなに疲れているのに眠れないことにも恐怖心。午後からの練習で自分の身体と格闘するだけの体力があるだろうか。ギリギリのところまで酷使する練習メニューの中、自分がエンストしてしまえばまわりにも迷惑がかかる。この一分一秒も捨てられない状況下でそんなことしたくない。悶々とした状態でのたうつと左側で寝ている西広の背中に手の甲が掠りギクッとしたが呼吸音は変わらず規則的な為ホッと息をつきゆっくり身体を起こした。
ストレスってよくないのに〜カフェインのバカーってかオレのアホー。
睡魔を呼び込むために何をすべきか考えてはみるのだが。
@適度な運動→そんなことすれば元の木阿弥
A入浴→水道管から出る冷たい水ではムリ
Bコーヒーを飲む→今この状況をつくっている原因かもしれないため危険
「…全部ムリーオレボキャブラリー無さすぎーまだコーヒーに頼る時点既にアウトぉ…」
乾いた笑いが出る。参ったもうこの際ジッとして目を瞑って少しでもHP回復にあてるより他ない。はぁと溜め息を漏らしまた横になろうかとしたときだった。むくりと右で寝ていた泉が起き上がったのだ。
「へっ…泉…?」
恐る恐る項垂れた顔を上げない泉の腕に触ると少し癖のある黒髪から除く眼光がこちらを向いたのだが。寝起きだからか何なのか失礼にも暗殺者も驚きの人相にかなりの恐怖が水谷を襲ってヒィッと小さく鳴いてしまった。
まっまさか…オレがごそごそしてっから起こしちゃってあまつ泉はキレちゃってたりしてオレ殺られる前に謝っとくべきだよねぇ?
口がパクパク動くばかりの蛇に睨まれたカエル状態で水谷はご…ごめん、ね?と絞り出すのが精一杯だったが、あ…?とこれまたドスの効いた声が発せられモウダメダと水谷は覚悟を決めた。
「…なん、オマエ土下座してんの」
「少しでも泉に優しくいじめてもらえればと思って」
「……キモチワリィな…オイ」
くしゃっと髪の毛をかきあげながらイジメテほしいんか?と問われた。水谷はその色っぽい仕草を見てちょっとならいいかもしれないと思うMっ気ある自分に気づきコクンと頷いてしまった。
「そうか、なら膝枕を希望する」
「…ひざ?」
「オラ、いじめてやるっつってんだよ。膝枕しろよ」
手をついたまま頭をあげポカリとまた間抜けな口を空けていると泉に手の甲で早くしろと膝を小突かれた。
「こう…?こうでいい?」
「おーいただきます」
「ぷはっ!どーぞぉ」
ちょこんと正座をした水谷の膝に頭をあずけて、かてぇわと文句を言うと泉はすぐ静かに寝息をたてはじめる。
うわっ子供だ、もう寝ちゃったよ。
お腹の底で笑いを堪えてさっきまでとはまるで違う幼い顔を見せる泉をググッと前屈みになって覗き込む。人のことは言えないが野球部にしちゃ少し長めの髪が鼻にかかってムズ痒そうにしている。
ハイハーイちょちょっと、ね。
小指で肌に触れないよう髪の毛を掬い上げる。その瞬間ムズリと尾っぽのあたりがこそばゆくなった。それがだんだん首の後ろを通り口内で広がっていく。気持ち悪くて舌で歯の裏をなぞってみるが治らない。耳元に口を近づける。
言ってしまいたい、どうしよう…。
もう少しで息がかかりそうな至近距離。ハッと息を吸う、どっくんと心臓が跳ねてこれから自分が言おうとしてることがどうか泉に届かないことを祈る。





「…オレの膝枕きもちいいだろ…孝ちゃん」





「…何してんの泉?」
「いや、何かコイツ眠れんかったらしくてさ。寝さしてやってんの」
「んーそれはどうみても落ちてるって感じだけど」
「西広ーオレの愛の形って知ってる?」
「なに?」
「泉スーパーメタリックイリュージョンフロントチョーク!!」
「…ただの絞め技ってことだね」
「に、にしひりょ…たしけ、て…」
「ムッ!?まだ息があったか!!」
「ねぇオレ友人が目の前で息耐えるとこは見たくないな」



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あきゅろす。
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