だから変な妄想するな!


雷炎にとっては、家人や侍女はなんともやっかいなものだった…



雷炎が女を連れて帰ってきたと知ったときのあのポカンとした顔を見ても明白だ。
雪月を侍女に案内させて、彼女がこの場を去ったとたんに使用人達が猛然と駆け寄って、雷炎に詰め寄ってきた。



「どっから攫ってきたんですかっ」
「いくら見た目が強面でまさに人さらいみたいだからって、まさか本当にするなんて!」
「損ないましたわ!」
「サイテーです!」
「信じていましたのに!旦那様がこんな人だったなんて!」


侍女たちはものすごい形相でこちらを睨んでいる。怒り、泣き、叫び、まさに阿鼻叫喚な状態が広がっている。

一方、家人である男達はニヤニヤというか、凄くにこやかでというか、生温かい瞳でこちらを見て、


「旦那様、好みのタイプ変わりました?」
「いやぁ…可愛らしい子ですねぇ」
「旦那様もお若いですなぁ」
「案外お似合いですよ。俺、応援してますっ!」



おのおのが色んな想像を膨らませ、叫び、語り、半分もみくちゃになる。




おいおいおい…


さっそく勘違いしてんじゃねぇか…



雷炎は思わず心の中でチッと舌打ちをした。だから、居候なんて預かりたくなかったんだ。こうなることは半分分かっていたが実際にこの状況に置かれると、うるさくてしょうがない。


しかも、お前ら失礼とも言える言葉がボロクソ聞こえてんぞ。



誰が人さらいだ、オイ。


しかも、人さらいみたいな顔だって?




そんなのもうとっくに自覚してるっつうの。



人さらいなんてしたこと無いが、自分と雪月が並んだ姿を思い浮かべてみても、本当にその用に見えてしまうから反論できない。

しかも、預かった雪月という女はひどく不安げな表情を浮かべていた。それに、小柄な体を少し震わせているから余計に使用人たちの妄想に拍車をかけたのだろう。



それに、好みのタイプが変わりました?だと…




雪月はふんわりと揺らめく長い髪、小柄な体格、少し幼さが残る顔は可愛らしいという印象を他人に抱かせる。



まさにこの騒動は雪月の容姿が起因となっていると言っても過言ではない。



いや、全然変わっちゃいねぇよ



俺の好みは今でも気の強い女だっての!


今までこの家に連れてきたことのある女と言えば、勝ち気で気が強く、はっきり言えば妖艶な女たちばかりだった。


それに比べて雪月はどちらかというと控えめで可愛らしい部類。


だから家人や侍女達は今連れてきた雪月を見て、変な勘ぐりをしているのだ。失礼極まりない言葉を雷炎に吐き捨てながら。



それに、おい、なんだよ



青春だとかお似合いだとか…






(あいつの扱い方もわかんねぇってのに!)



気の強い女しか相手にしてなかったんだ、あいつみたいに大人しいやつにこれからどう接すればいいかさっぱり分からない。


これからどうしたものかと考える。


けど、結論はもちろん打開策すら思いつかない。



腕っぷしには自信があるが、こういうのを考えるとさっぱり思いつかない自分の頭が憎らしかった。



腕っぷし、か…



雪月の脅えた瞳が頭にちらついた。




(そりゃぁ、剣を向けたやつが恐くねぇわけねぇよな)



朝廷から邸までの帰り道、雪月はずっと神経をはりつめて、不安げな様子をしていた。


そもそも、なんで霄太師は俺にあいつを預けんだかさっぱり分からない。



意図があるのか、ないのか…



分からない事だらけだ。



(あぁクソっ!なんで俺がこんなに悩まなきゃいけねぇんだ!)



こんなに考えた込んだ事は今までにないかもしれない。


もともと考えるなんて性に合わない。


悩みなんて深く考えない、それが俺の主義だ。それが、例え相手に少しばかり迷惑かけてしまう事もない事もないが。


やりたいようにやる。


自分で言うのも難だが、はっきり言って誰かに気配りをするという行為は苦手分野だ。



では、どうするか。



(そんなにかまう必要もねぇよな)




自分が恐がられていると自覚はしている。


だったら、近寄らなければあいつにとってもいいんじゃないか?


俺にとっても悩む必要がなくなって、一石二鳥じゃないか。


そもそも、俺はただ預かっただけだ。身の安全さえ保証すればいいだけで、それ以上は求められていない…はず。




雷炎は自分に言い聞かせるように、頷く。



触らぬ神に祟りなし。



下手に近づかない。



よし、この手でいこう。




やっと思考の渦から抜け出せた雷炎は、未だに雷炎の周りでギャーギャーと騒ぐ使用人達に目を向ける。


「旦那様が誘拐までするなんて…」
「もしやまた女性に振られたショックで!?」
「まぁ旦那様はがさつで無神経な所がありますものね」
「それでいつも振られてしまうんですのよね…」
「「「ハァ…」」」

などなど、ため息混じりに話し込んでいる。




耳に障る発言がちらほらを聞こえてんぞ。



額の血管がピクリと動き、雷炎は口元を引きつらせる。そしてその場に低音の声が響いた。





「てめぇら、勘違いすんじゃねぇよ。まず話を聞け!」









【だから変な妄想をするんじゃない!】





雪月について軽く説明し、これで変な妄想もされないだろうと思った雷炎だったが、それは見事に裏切られる形となる…




数時間後

侍女や家人達から雷炎に数冊の本が贈られた。


その本の題名は…




『恋する姫と野獣の出逢い!其の一』



巷でいう、恋愛小説。



(………)



雷炎は無言で投げ捨てた。





家の者はどうしてもあいつと俺を親しくさせたいらしい。



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※『恋する姫と野獣の出逢い!』短編より再び登場させてみました。



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