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話の幕開け
ある世界に、人間と魔法使いが存在していた。
その世界の、ある大陸に大きな国が3つある。
和風な建築物が多く、大陸一の観光名所がある≪パーチェ≫、洋風の建築物が並び、大陸内の貿易場ある≪マルク≫、そして大陸の国々を総べている陸王がいる≪ベガニタ≫。
この3国は同盟を結んでおり、入国を自由にできる。
この話は、国王同士のどうでもいい日常を綴ったものである。
『話の幕開け』
大陸一の観光名所であるパーチェ。
この国の領土の丁度真ん中に年中咲いている紅葉の大木があり、その葉を持ち帰り懐に入れておけば胸に秘めた願い事が叶う、という言い伝えがあるのだ。
効果もあるらしく、新聞やテレビ、雑誌なのにも何度も取り挙げられた事もある。
その為か、今では大陸外からわざわざ足を運ぶ者もいるのだ。
また、この国の南側には陸内最大のサーカス場がある。
春と秋はこのサーカス場で一日5ステージのショーを上演し、毎回ほぼ満員状態だ。
夏と冬は他国へ公演しに巡っている。
街の中心、紅葉のすぐ北側には国の管理施設が並んでいる。
その大木の一番近くにボロボロの木造建築の平屋が建っている。
入口近くにある錆びた赤色のボストには、何日分かの新聞と茶色の封筒が2、3冊ねじ込まれている。
ガタガタと建てつけの悪い引き戸を通り抜け、通路が一本。
その一番奥の部屋で、男がタバコを咥えながら手に持つ書類と睨めっこをしている。
部屋には足の踏み場もないほどの本が積まれ、来客用のソファーやテーブル、男が座っている机の上に大量の書類が山積みにされている。
「げ、もうこんな時間か」
チラッ、と腕に着けていた腕時計に目をやり、お昼前かと呟きながら咥えていたタバコを机の上のタバコが大量に入った灰皿に押し潰した。
椅子から腰を上げすぐ後ろにあった窓を開け、部屋の換気を始める。
窓からは紅葉がすぐ傍にそびえたっている。
風が吹きガサガサと音を立てて葉が揺れているのを見ていると、1枚の葉が男の方へと飛んできた。
手で掴み葉を眺めていると後ろの方、扉の向こうからバタバタを足音が聞こえてくる。
「あっ、もう来たのか」
葉を胸のポケットへとしまい、男は慌てたように灰皿を掴み近くのゴミ箱に捨て、机に置かれている書類をかき集める。
「御機嫌よう、ボス」
「ジョンさん!お昼ご飯です!」
扉が開くのと同時に、2人の声が部屋に響く。
腕を組みダルそうな表情を浮かべる白い髪でポニーテールの着物の女性と、黒のドレスに白のフリルが沢山ついたゴスロリ姿で手にはスーパーの袋を持った黒髪長髪の小学生低学年ぐらいの子供が部屋に入ってくる。
「相変わらず汚い部屋ね。死になさい」
「うさ、言葉遣いが悪い」
うさと呼ばれた女性、うさ子は赤い目でギロリとジョンの顏を睨んだ。
「それで書類はちゃんと出来たのかしら。死になさい」
「ちゃ、ちゃんと出来てるから懐から拳銃チラつかせるのやめろ!」
紙の山に下敷きにされていた茶封筒を引っ張り出し、集めていた書類を詰め込み、紅葉の赤い印を押す。
それを持ってうさの前まで行き手渡した。
「あら、残念。今回も命拾いかしら」
「お前の冗談は冗談に聞こえない」
「冗談だと思って?私はいつでも本気よ」
茶封筒を懐にしまい、うさは隣に立っていた子供に目をやる。
「シバ、それじゃ私は行くわ。またお話しましょう」
「また!」
「頼んだぞ」
シバに微笑みながら手を振り、ジョンの言葉を反応せず部屋から出て行った。
「ウサさんも相変わらずでしたね」
バタッと扉が締められた後、シバはジョンに向かって苦笑いを向けた。
「…だな」
「あ、お昼ご飯食べましょう!」
持っていた袋をジョンにずいっと差出す。
「あとお掃除もしましょうね。タバコ吸ってたでしょ?」
ニコッと音がなりそうな満面の笑顔をジョンに向け、ジョンは小さくバレてたかと肩を落とした。
「『同盟国の会合』か…」
平屋から退出したうさは受け取った茶封筒を懐から出し、ボソッと呟いた。
「私に面倒事がこない事を祈るばかりね」
小さくため息をつき、指をパチッと鳴らすとポンッと箒が現れた。
軽やかに箒に腰かけ、空へと飛んで行った。
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