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2.スタート!!(2)


 この都市がそのまま学園……といってもそれは表向きだけらしいが、学園なんだそうだ。でかっ。
 ここは正確には研究機関で、『育成研究システム』と呼ばれているらしい。なんの育成を目的としているんだ?
 ともあれ、それでも初等部、中等部、高等部があって、普通の教育が行われているとかなんとか。でもって、蝶野は初等部からここにいる古株で、この春高等部1年になるそうだ。つまりボクと同学年。
 虹色に輝く髪を揺らしながらそんなことを語った蝶野は、その他詳しいことは新学期が始まればわかるからと説明を省いた。
 ボクらは現在、長くて幅広な大通りに来ていた。道の両サイドに高層ビルが乱立している。並ぶガラス窓が太陽の光りを受けてギラギラ輝き、目を痛めつけられた。
 大通りだけあって人通りが多いけど、ボクと蝶野が2人並んで歩くことが可能な程度の人混みだ。雑踏の中でも、互いの声は十分に届く。
「ところで蝶野」
 大雑把な説明しかしない蝶野に声をかける。気になったことは自分から訊かないと話してくれそうにないんだもん、こいつ。
「なんだい?」
「ボクらはこれから何をするの?」
「4月5日に始業式があるよ」
「いや、そんな先の話じゃなくて」
「冗談だよ。とにかく来ればわかるから」
 ニコニコと。爽やかな笑顔で蝶野が言った。
 目的地も予定も何もわからないまま、ボクは彼に従うしかない。ここで彼と別れたら、ボクは間違いなく迷子になるのだから。他に頼れる人といえば《御船弥一》くらいだけど、こうも広いと、彼と遭遇するのは難しいだろう。
 なんでここに来てしまったのだろう……?
 まだ色々と整理できていない。混乱している。色々な出来事が混雑している。
 《御船弥一》が訪れたときから……いや、もう少し前から、脳味噌の中が混雑している。ぐちゃぐちゃしている。
 少し回想が必要なのかもしれない。ちょっと考えたい。
 ……と思っていた矢先に、
「あれ? 蝶野じゃんか」
 事態に変化が訪れる。見るからに軽薄……基、親しげな感じの少年が、蝶野に声をかけていた。ボクらと同い年くらいの、背が高くて屋内のスポーツとかしていそうな少年。あまり日焼けしていないしひ弱そうでもない。
 蝶野が立ち止まって少年に笑みを向ける。
「庵原、どうしたの?」
「いや、お前も何やってんだよ」
 庵原というらしい少年がボクを一瞥して、また蝶野に向き直る。
 うーん……これはどうやら回想している時間じゃないらしい。仕方ないからまた後でにしよう。
 取り敢えず、2人の会話に耳を傾ける。蝶野が「ふふふ」と含み笑いを見せていた。
「そこの人の案内だよ」
「えっ……」
 庵原は顔を引き吊らせて硬直した。なんで?
「御船先生直々に命令されてね」
「はあ? あの人何考えてんだ? あ、いや、何も考えてねぇのか」
「あのさ庵原、さっきから何が言いたいわけ?」
「何ってそりゃあ……なあ。ところでそいつは?」
 庵原がボクに目を向ける。どうリアクションしたらいいかわからないから、軽く会釈しておいた。
「転入生」
「あぁ、例の」
 うん?『例の』?
「俺は庵原浩也。よろしくな、仁科」
 人懐っこい笑みを向けてきた庵原がボクの名前を言い当てた! いや、知っていただけなんだろうけど。
 ボクもそれに笑顔で『よろしく』と返す。
 それにしても庵原、蝶野があまりにもあれだから目立たないけど、そんなに残念な外見ではないようで。むしろいい方……かは微妙だな。
「そんで? どこ行く気だったんだよ」
「寮に」
 蝶野はあっさり答えた。なんでボクには内緒なんて言ってたかなあ。
 呆れ顔になった庵原が溜め息をつく。
「蝶野……それ、方向逆だから。はい、回れ右!」
「えー」
 えー。
 不服そうに唇を尖らせる蝶野とボクの心中語がかぶった。いや、蝶野が『えー』言うのはおかしいでしょ。
「えー、じゃありません! ほれ行くぞー、おー」
 庵原は蝶野の躯の向きを180度回転させ、その小さな背中を押す。
 ボクもその2人に続いた。

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あきゅろす。
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