2.スタート!!(8) 1階にカフェなんてあったんだ。まず思ったことはそれだった。 昼間に行った『パノラマ』とは違う落ち着きのある印象の、小洒落たカフェだ。カウンター席はなくて、妙にデザインに凝った丸テーブルが多数ある。客足も上々。 その中の一角で、橘と向かい合うようにして座る。 「では始めましょうか」 「はあ……」 「1年A組仁科くんに質問です」 「ボク、A組なの?」 「A-40なんだからA組です。このAはA組のAですよ」 なるほど、最初のアルファベットは組を表すのか。じゃあ、橘と同じクラスなわけだ。 「で、仁科くん。貴方の出身地をずばり教えてください。国ね、国。州とかわからないから」 「日本。本土から。ついでに、日本は道州制じゃないよ、都道府県だから」 「だろうと思いました。碧眼に濁りブロンドだけど、ハーフ?」 うぐ……。 に、『濁り』って……。そんなずばっと言ってくれなくてもいいじゃないか。 「そうだよ。君と同じ」 「わたしがハーフと見抜くとは……さすがですね」 「いやまあ、名前聞いた時点でなんとなくわかるよ」 本当は見た目でも少しわかったんだけど。だって、橘の顔立ちはどちらかといえば東洋人に近いから。童顔で。 逆にボクは顔が西洋に近いのかな。目とか、鋭いらしい。子供っぽくない、って。あー、違うな。怖い、って。 まあ、いいや。どうでも、いい……。 それから橘ルシエの繰り出す質問に無難に答えて、それが終わったのは2時間後だ。質問内容は『好みのタイプは?』とか、めちゃくちゃありきたりだったのに。トークが多かったせいかな。 最後に4月5日の午後の予定を聞かれた。始業式やらの行事は午前中に終わるらしいので、予定はないと答えると、放送のゲストに呼ばれた。……マジかよ。 まあ、何事も経験かなとかなんとか。つまりゲスト出演してみようじゃないか、と。 トーク、苦手なんだけどね。あはは。 † 「ゲスト出演お疲れー」 「まだ何もやってないよ」 カフェを出たところで遭遇した庵原に開口一番に言われて苦笑する。 というか橘との会話を聞いていたのか、こいつ。 「ははっ。これで仁科も災難に巻き込まれるわけだ」 「どういうこと?」 「橘ルシエの放送番組、『上を見ろ』ってタイトルだけど、あれは疲れるぞ」 「どんなタイトルだよ」 「スピーカーが天井に埋め込んであるから」 「なるほど、自己主張の激しい番組だね」 「全くだ」 何気なく歩き出した庵原に続き、ロビーにあるソファーに並んで腰掛ける。 「橘はさ、インタビューとか銘打って、トークの面白い奴とか、とにかく声のいい奴をみつけてはゲストに呼んでんだよ」 庵原は「だからインタビューに意味はないわけ」と続けた。 「庵原は呼ばれたことあるの?」 「1回だけな。ネタに困ったら御船が呼ばれる」 《御船弥一》……トークのセンスは知らないけど、声はよかった、のか? とにかく低音だった。確か。記憶が曖昧。 「まっ、一番ウケたのは蝶野のときだな」 「どうだったの?」 「それがな」ニヤリ。庵原が笑って、ボクを見る。「迷子だよ。当日道に迷って、結局橘1人の放送になった。ざまあ」 笑い事じゃないだろ、それ。というか『ざまあ』って……橘に個人的な恨みでもあるのか? 「庵原、橘と前に何かあった?」 「気にすんな★」 何かあったのか。 「まああれだ。今年も同じクラスだねーあははー、とか」 「よくわかりません。というか、橘と同じクラスってことは、ボクとも同じだよね?」 「おう。蝶野もな。担任が御船」 「楽しそうなクラスだね」 いや、わからないけど。そもそもクラスとか学校って、楽しいのか? あんまり経験がない。 なんて思っていたら、とん、って。庵原に肩を叩かれた。 「なんだかんだ言っても、楽しいぞ、あそこは」 察しがよすぎるだろう、庵原。お蔭で、「ありがと」少し、感動したじゃねーかー。 [*前へ][次へ#] |