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3.旋律(5)


 暗い部屋。
 冷たい空気が満たす、綺麗に片付けられた清潔な印象のリビングだ。それだけに、どこか寂寞としたものがある。ただし、そこにある机の上を除き。
 そこの椅子に腰掛け、1人の青年が煙草をくわえていた。彼の目の前の机の上には、煙草の吸殻の山ができた灰皿がある。
 青年は部屋の明かりもつけず、暗闇の中で苛々と吸殻を増やす。それはまるで、逃げようのない不安に駆られたかのように。
 その青年が次の煙草に手をつけようとした時、部屋の扉が開いて、青年が1人、顔を覗かせた。
「千眞、寝ないの?」
「ん? あぁ、そうだな。少し考え事してた。あー、眠ィ」
 くわえかけていた煙草を箱と一緒に机上に置き、青年――千眞は立ち上がる。心配そうな表情を浮かべる青年に『おやすみ』と言って、『ふあぁ』と欠伸をしながら寝室へと入った。
 ふらりとベッドに倒れ込む。しかし、眠れない。眠気もない。それでも眠らなければと、無理矢理に目を閉じてもみるが、意識ははっきりとしたままだった。

 そんな日が、1週間続いた。無理矢理寝た時もあるが、その眠りは浅く、時間も短かった。
 目に見えて疲弊してゆく自身を理解し、事務所にも殆ど顔を出していない。その千眞が向かったのは、とある高校の保健室だった。
 見るからに窶れた姿の彼を見て、そこの担当である男――霧生夏目は開口一番に『何があった?』と尋ねた。
「眠れねぇ」
 ソファーに力なく座る千眞は、呟くように答える。
「食欲は?」
「ない。睡眠薬かなんかくれねぇか? 流石に体力がもたねぇ」
「当たり前だっつの。ベッド空いてっから使え」
 夏目は素早くベッドの準備を調えると、千眞に『立てるか?』と問うが、無理だということは明白で、殆ど肩を貸す体勢だった。

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