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6.過去、騙られる(2)


 鹿波の姿がふいに消える。なんの前触れもなく、唐突に。
 シャーロックは掲げていた両手を下ろし、ふっと一息ついた。
「しっかしまあ……よく襲われるんだな、お前は」
「その言い方は止めないか?」
「うん、で、これで集合か?」
 静瑠の言葉を軽く受け流し、シャーロックは改めてそこにいる面子を見た。
 千眞、幸実、比奈の3人がいる。ついさっき揃ってここへ来た面々だ。そして、
「ミスターっ」
 息を切らしながら、優月がそこへ駆け寄る。
「早姫さん、病院で警告した筈ですよ?」
「はい。けど、僕も色々と知りたいことがあるし、やっぱり――――暁さんを見捨てたくないんです。例え足手纏いになっても……。それに、ミスターも来てるじゃないですか」
 優月は小さく笑い、幸実に答えた。
「全く、貴方という人は……」
「いいんです。さあ、行きましょう」
「そう。行くなら早くしないと、俺の体力がもたない」
 境目に近付いた優月に頷いた静瑠が、その場の全員を促す。
「俺もこの中で動き回るつもりだから、ここであんまり浪費できないのさ。こんな呪いの争い、早く終わらせよう」


「あれ? ここ、さっきも通らなかった?」
 薄暗い回廊で立ち止まり、絢佳は首を傾げる。
「そう? それより、少し肌寒い気がするけど」
 紫音は近くの扉のドアノブを掴んでいた。
「確かにそうだね。これで朝木がいたら、君と朝木でくっついて歩くと君らは勿論、僕もあったまるんだけどさ」
「黙って」
 ぴしゃりと言うと、彼はなんの躊躇いもなく扉を開く。そして――――
「暁……あれ」
 扉の向こうにあった真っ暗な部屋のほぼ中央に横たわるものを見て、ただそれだけ言った。
 そこにあるのは、3つの死体だ。人間の死体だ。紫音にも絢佳にも見覚えのある人物3人の、綺麗な死体だ。
 外傷は何もない。しかし、見てすぐにそれが死体だとわかる程の血色の悪さと、圧倒的な存在感がそれらにはあった。
 何かが抜き取られたかのような虚無感があるのに、それが死体でしかないのだという現実が誇張されているかのような印象を受ける。
「何、これ……」
 ゆっくりと部屋に踏み込んだ絢佳が、3つの死体に近づきつつ声を漏らす。
「……死んでるんだよね? ッ!!」
 死体へ伸ばそうとした手を、咄嗟に口元に当てた。強い吐き気がする。
「暁?」
「神宮寺、戻るよ」
 背後から怪訝そうにかけられた声に答える余裕もなく、絢佳は吐き気を無理矢理抑えつけ、踵を返して部屋を出る。
「どうかした?」
 部屋の扉を閉めたところで、紫音が絢佳の顔を覗き込んだ。
「あの死体……近づきたくないんだよ」
「確かに妙な感じはしたけど……」
「妙、どころじゃない。あれは……なんて言うのかな。ブラックホールみたいな……。そう、病儺から自我が消えた感じ。とは言っても、死体自体は無害なんだと思うよ。問題は――――あの3人をあんな死体にした奴」
 絢佳が扉を睨み付け言ったのと同時に、長く続く回廊の暗闇の中に、何者かの気配がした。

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あきゅろす。
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