2.世界、憎まれる(2) シャーロックはやれやれと溜め息を溢し、上体を起こした静瑠を見遣る。 「無事か?」 「一応は。で、君、いつから“グループ”に入ったの? しかも斬り込み隊長」 「嘘も方便」 「無意味な嘘を……。ま、それも1つの形だけどな」 そう言いつつ、静瑠は軽く伸びをする。 「嘘には数種類ある。無意味な嘘と、真実を隠す嘘、そして、答えないための嘘――つまり、相手へ答えを提示する意思がないことを示すために、バレるバレない関係なしにつく嘘だな。まあそんな意図で嘘つくのは、彼女くらいだけど……。君がそれをどう使うのかは君の自由。好きにすればいいさ」 そして吐息をついた彼に『ふうん』と相槌を打ったシャーロックは、『ところで』と話題を切り替える。 「ちょっと、両手挙げてみ? しっかりと腕伸ばして」 「?」 頭上に疑問符を浮かべつつも、静瑠はシャーロックの指示どおりに、両腕を挙げる。 「お前、いくら自分の部屋だからって薄着しすぎなんだよ。ついでに腰、見えてる。それじゃあ襲われても文句言えねぇな」 「ッ――――?!」 両手を腰に当ててまじまじと静瑠を観察するシャーロックの視線から逃れるように、静瑠は近くに落ちていた薄手のタオルケットを引っ張り、躯を覆う。 「はははっ。大丈夫、俺は襲わねぇから。なぁに警戒してんだよ、失礼な奴だな」 シャーロックはケラケラと快活に笑うと、のんびりと静瑠に近付く。 「にしても、ほっそいなぁ、お前」 「好きに言っていればいいさ……。で、君の用件は?」 「用件って程のことでもねぇんだけっどもよ。道を聞きてぇんだ。千眞んとこまでの」 「……それだけ?」 怪訝そうに静瑠が首を傾げると、シャーロックはこくりと頷いた。 「何か、トラブルがあったようですよ」 とある病院の個室の窓辺に立ち、早姫優月はベッドの上で上体を起こした人物に目を遣る。 「絢佳ですか?」 「はい。巻き込まれたみたいです。峰村猫フェアリーレンによって」 怪我で入院中の相手へと歩み寄り、優月は『どうしますか?』と尋ねる。 「しばらくは様子を見ましょう。いまの私にできることは、たかが知れています」 「そうですか……。でもミスター、僕は彼女を救いたくて、あなたについて行くんですよ?」 「えぇ、知っています。あの時も、貴方はそう言って私の下へ来た」 ミスターと呼ばれたその人物――暁幸実は、ふと目を伏せる。 「しかし、私達は焦りすぎてしまった。その結果があれです。絢佳に相応しいのは、一方的な保護ではなく、“チーム”のようなアクティブなサポートなのでしょう」 「なら尚更、ここで黙っていていいんですか?」 「なら問いましょう。いまの貴方に、何ができます? その“眼”は果たして何を見ることができますか? 貴方はそれで、あの子の下へ行くことができますか?」 幸実が紡ぐ言葉に反論することもできず、優月は視線を落とした。 「いいですか? 現段階において私達は無力です。星屑さんの所在が掴めないいま、早雲さんと貴方だけが戦略では不安定すぎる」 幸実は伏せていた顔を上げて、目元にかすかな笑みを浮かべる。 「大丈夫ですよ。絢佳は私の妹ですから」 [*前へ][次へ#] [戻る] |