はあはあと、お互いの息切れの音がする。他の女との情事の時でさえ感じた事のない疲労と達成感が体を支配した。
らしくないな、と思いながら、リボーンは鉄の屋根から覗く夜空に目を細めた。
「ね、リボー、ン」
振り向くと、膝に手を着いたツナが、こちらを見上げて笑っていた。痛々しいくらいに、頬が赤い。
「なんだ?」
「私たちっ、逃げ、られたんだよ、ね?」
まだ雪が舞っているというのに、握り続けていたツナの手は汗ばんでいた。あぁ、俺もそうか。
温室育ちのお嬢様と、生まれた時から命の駆け引きを強いられてきた俺では体力が圧倒的に違うのに。
「ああ、たぶん、な」
俺の呟きとホームの声が重なる。
俺の言葉が聞き取れたのかはわからないが、ツナが笑みを深くした。白い息がお互いの間に漂った。
どうやら俺達が乗る電車が着たようだ。
彼女の住んでいた屋敷から走って1キロ、駅のホームで怪しまれない程度に急いでのった電車の中。
もともと需要の少ないあの駅には、夜遅い事もあってか人陰がなく、乗った電車にも俺達しか居なかった。
「リボーン」
「なんだ?」
ツナは、こてん、と俺の肩に頭を乗せた。頬に、彼女の柔らかい髪が触れる。
雪の中を走り抜いたせいで、色素の薄いそれには雪がつき、溶け、彼女の髪を濡らしていた。
「なんか、ね。雪の中をリボーンと走るの、怖かったけどね、楽しかった」
「のんきだな、お前」
ツナが戯れに、俺の指に自らのを絡めた。白い指は指先だけ赤くなっていて、触れた肌は冷たい。
「ねぇ」
「ん?」
「また、一緒に走ろうね。手、繋いで」
「……お前が走んの遅いから、ヤダ」
「むぅ」
自分とは違う儚げな手が怖くなりながらも、強く握り返した。
「なんで、手袋忘れんだよ、馬鹿」
「だって、逃げる事で頭が一杯だったから……」
「はぁ、ダメツナが」
「もう違うよ!二十歳になったんだから、ダメツナって言うな!」
プゥと頬を膨らます癖が直らない奴が二十歳とは。出来心でその頬を突いたら、ますます膨らませて睨んできた。
「お前が二十歳だったら俺は二十七だぞ。年上だぞ、年上。敬え。」
「…年寄りっ」
「……いい度胸だな、夜は覚悟しとけよ」
「うわぁ、リボーン、やらしい!!」
そう言いながらも、ツナは笑った。子供みたいな笑い方。その拍子に、茶色い髪が一房、さらりと揺れた。
そんなツナの頬に口づけると、彼女は真っ赤になって固まる。俺はそんなツナの肩を強く引き寄せた。
触れた朱い頬は、氷のように冷たくて、泣きそうになったのを隠したかった。