勇んで登校してくると、我がクラスは異質な雰囲気を放っていた。
バレンタインで賑わっていたうちのクラスは、すなわちホワイトデーも無視出来ないイベントなのだ。
また、綱吉の友人二人は貰った数も桁違いだろう。
山本は教室の中心でキャンディー袋を持って、欲しがる人に渡している。ウケ狙いで男子が「山本君、私もチョコレートあげたのよ」なんてシナをつくっていた。あれならば、玉砕覚悟であげたり、ただ思い出に、みたいな本気だった女子は貰いに来ないし、本人達もお返しなんていらないんだろう。
獄寺君は、とその姿を捜すと近くにいたクラスメイトが声をかけてきた。
「え、帰ったの?」
「ああ、朝早くに来て、すぐに帰ったぜ」
まだ朝のホームルームも始まっていない。この時間に既に帰るなんて、彼は何をしに登校したんだろう。
綱吉が考えこんでいると、また別のクラスメイトが肩を叩いてきた。
「おい沢田、お前あそこら辺の女子に礼言った方がいいぞ」
あそこら辺、とはクラスの端に固まった三人くらいの子達だ。山本の輪にいないし興味もなさそうなので、別に本命がいる集団だろう。
「なんで?」
「ほら、アレだよ」
彼が指差したのはまだ行っていなかった綱吉の机だ。昨日まで何も置かれていない筈のそこに、ピンクのドット柄のかわいらしい包みが置いてあった。
「え、あれって……」
「獄寺から………」
近づいて中身を見ると、メッセージカードらしき物が入っていた。見ない事にした。
話を聞くと、朝早くに学校に来て俺の机にプレゼントを置いた獄寺君は、しばらく動かずに机を見つめていると、突然鼻血を出して倒れたらしい。早い時間とはいえ生徒が何人かはクラスにいた。そこで、獄寺君の血を、先程の女子達が片付けたりしてくれたらしい。ちなみに、獄寺君は早退した。
「獄寺君……俺、バレンタイン何もあげてないのに…」
それは考えない事にしよう。
「あと沢田、さっきから山本が見てる」
顔色の悪いクラスメイト越しに山本を見ると、明らかに目が笑っていない笑顔でこっちを見ていた。軽い既視感を覚えた。とりあえず、ひきつりながらも笑い返しておいた。今日話しかけるのは避けた方がいいかもしれない。嫌な予感がする。
ちなみに、獄寺からのプレゼントをよく見たら、ドット柄ではなく血がついていた白い包みだった。
「こわっ!!」
綱吉は知らない。先程の三人の女子達が、獄寺の血を拭いたハンカチを幸せそうにじっと見つめている事を。
クラスは、ある意味バレンタインデーよりも盛り上がっていた。