クッキーのカスが残っているのが気になるが、状況的にそんな余裕はない。
ツナは鞄を探り、アルミホイルに包んだチョコレートを取り出す。
「げ!!……」
思わず大きな声を上げてしまった。先客が起きてしまったかもしれないとヒヤヒヤしながら、ツナは溜め息をついた。
確かに、チョコレートが入っているにも関わらず、ツナはいつも通り乱雑に鞄を扱っていた。しかも、空気が篭っていたせいで、チョコレートが柔らかくなってしまったのだろう。
一応丁寧に切り分けたはずの生チョコレートは、銀紙の中で甘ったるいの塊となっていた。
「……」
試しにラッピングが施されている箱に二、三こそのチョコレートをちぎって入れてみたが、外装が綺麗な分、中身のいびつさが目立ってしまった。生チョコレートといいより泥団子に近い。
リボーンに、あげられる筈がない。
「どこまでダメツナなんだ…」
自暴自棄になりながら、箱にいれたチョコレートを食べてみる。味は、普通に美味しかった。尚更惨めになってくる。
「美味いじゃねぇか」
「うん。美味しいんだけどさ…」
ツナが溜め息を尽きながら二つ目に手を伸ばすと、チョコレートの塊が手元から無くなっている事に気付いた。
しかも、先程聞き覚えのある声が…
嫌な予感を感じながら顔を上げると、おそらく現在女子が血眼になって探しているであろう色男の姿が。しかも、上品な外見に似合わずチョコレートの塊に噛り付いている。
「リボーン…なんで…」
呆然としながらツナが呟くとリボーンはチョコレートを口から離して「チャオっす」といまさらな挨拶をしてきた。
「俺が保健室でサボってたら、ツナが来ただけだぞ。ぶつぶつ呟いて危ない奴、と思ってたら美味そうな匂いがしたから貰いに来てやった」
上から目線が少し気になる。が、やはり美形の美醜に小道具は関係ないらしい。再び噛り付きだしたのが泥のような塊でも、なぜか格好よく見えてしまう。
「美味い…?」
「ん」
ツナは今だに状況が把握出来ていない。ポケーとしながら塊が消えていくのを見ていた。
「よし。食べてやったんだから、ホワイトデー楽しみにしてるぞ、ダメツナ」
「……は?」
なんだが言動がおかしい。
驚くツナに、リボーンは大袈裟に哀れみの視線を送ってくる。
「ダメツナの手作りチョコレートを、食べたのは誰だ?」
「…リボーンです」
「ああ。この俺様だ。このリボーン様が、ダメツナのチョコレートを食べてやった。よって、俺はホワイトデーもツナからの礼を要求する権利がある!」
理解できない理論にツナは脱力する。
結局、チョコレートをあげても、リボーンのドSっぷりに変化などなかった。
その後リボーンは5時間目が始まる前に早退した。彼は机の上のチョコレートは作った奴が持ち帰れ、と張り紙をしていった。
奴が何をしにきたのか、全くわからない。
ただ、体に染み付いた甘ったるい匂いは、嫌いじゃないな、とツナは思った。
チョコレート密度
甘さは貴方への想い分
遅すぎるバレンタインねたです……
ちなみに、リボーンが何故チョコがツナの手作りだと知っていたかというと、前日にママンから「ツッ君がんばって作ってるのよ〜」と教えられたからです。