パラレル 3 なんとか時間に間に合いながらも駆け込んだ教室は、異常な雰囲気を放っていた。 チョコを片手に恥じらう女子の集団と、それに囲まれた一部の男子と、やっかみ半分諦め半分でそれを見る周囲。 ツナのいるクラスは美形が多いためなのか、室内はおかしなオーラで溢れている。人口密度も通常のクラス人数の三倍はある。 朝の、しかもホームルームぎりぎりの時間でさえこうならば、今日一日は友人達とまともに顔を合わせる事はできないだろう。 なんの因果なのか、ツナの友人は揃いも揃って顔がいいのだ。 溜め息を着きながら自分の席に行くと、隣の席が鞄すらない事に気付いた。嫌な予感がする。 「ね、ねぇ」 「、あ?」 思い切って前の席にいたクラスメートに話しかけると、彼は一瞬動きを止めてから振り返った。 「リボーンってさ、今日休み?」 「今いないんなら休みじゃね?騒がれんのウザそうにしてたし」 「そっか、ありがとう」 渡す相手が欠席なんて事態を予想していなかったツナは、内心泣きそうになりながら隣の席を見つめた。本人がいないにも関わらず、チョコが山積みになっている。 そうしていると突然、彼は青ざめた顔でボソボソとツナに早口でしゃべった。 「てか沢田、今日はまじで俺に話し掛けんな。山本と獄寺がこっち睨んでっから」 そう言ってさっさと向き直り机に突っ伏してしまった。 その言葉に首を傾げながら、教室の隅で今だに囲まれている友人二人を見ると、確かに二人ともこちらを見ている。 「……」 (うわぁ……) その眼差しの真剣さに若干引きながらも手を振ると、山本は笑いながら振りかえし獄寺は満面の笑みを見せて、クラスに黄色い声が響いた。 予鈴が鳴ったためお開きになったチョコ集団は、教室中に甘い匂いと微妙な空気を残していた。  ̄ ̄ 「よってこのXが二倍になるので…」 教室に響き渡る解説を聞き流しながら、ツナはどうやってリボーンにチョコを渡そうか考えていた。 今は二時間目。この時点で隣は空席で、そのかわりチョコが所狭しと置かれている。ついには椅子の下や、床にまであるため、クラスメート達は踏まないように気をつけてなければならない。 真っ白過ぎるノートに、ツナは様々な案を書いていく。 ・机の上に置いておく。 ・家に行って渡す。 ・明日渡す。 そして、躊躇いつつも「・渡さない」と選択肢に書き加えた。 リボーンの名前は、あえて書かなかった。 ・机の上に置いておく。 →たぶんあいつは全部食べない ・家に行って渡す。 →俺からだと受け取らない ・明日渡す。 →明日来るかわからない ・渡さない → 選択肢に予想を書き足していたシャーペンの動きが止まる。 「・渡さない」を選べない理由が、見つからない。 渡さなければ始まらないのに。まだ心の中で変化を怖がる自分がいる。 ペキッと、ノートにつけたままだったシャーペンの芯が折れた。 堪らなくなってそのページを乱暴に消しゴムで消した。少し皺がよってしまったが、何が書かれていたのかはわからないくらいの白さに戻った。 ツナは、チャイムが鳴るまで珍しく真剣に板書した。数式なんて、頭に入らないのに、書き写す筆圧はやけに強かった。何か別の事をして、気を紛らわせたかった。 [戻る] |