悩んで悩んで、それこそ知恵熱が出るくらいに考え込んだ結果、俺はアイツにチョコを送ろうと決意した。
長い間溜め込んでいた想いやら、なんで気付かないんだよっていう愚痴を込めて板チョコを刻み、疲れながら湯煎をかけ、生クリームを入れて混ぜ合わせる。
中々混ざらない茶色と白は、俺とリボーンみたい、なんて乙女チックな事をぼんやり思ってしまった。
全然違うのに、どこかで繋がっている所とか。
「……ふ〜…腕痛い」
やっと混ざりあって、先程より柔らかくなったチョコに一息つく。首を回したらコキッと鳴った。
これが固まらないうちに型に流し込み、一時間程冷やしたら一口サイズに切ってココアパウダーをまぶせば完成。なハズ、だ。
「意外と生チョコって簡単なんだなぁ…」
型というか、ラップを敷いた普通のタッパーに流し込みながら独り言をしてしまう。
あんなに旨いのに、俺なんかでも作れて大丈夫だろうか。
だが、このレシピを教えてくれたのは、あの京子ちゃんなので、大丈夫だろう。
チョコを冷蔵庫に詰めると、俺は満足げに頷いた。時計を見ると12時。もちろん、夜中の。
「……明日の朝に仕上げよう」
身体からチョコレートの甘い薫りがして、綱吉は照れ臭そうに笑った。
……アイツはどんな顔をするだろう。
もちろん、直接は渡さないけれど。だって、ダメツナからだと知ったら、リボーンは絶対に食べてはくれないだろうから。
「もし、チョコが出来たら……」
前に見た映画の台詞が疲れた頭に過ぎった。名前もわからない、だが、何かで賞を取ったらしい綺麗な恋愛映画。
暇だったから適当に回していたチャンネルで、思い詰めた男優の空気に呑まれて手を止めた。
『…彼は信じていた。この絵が完成すれば、彼女が自分の元に帰ってくると。半ば狂いながら、彼は頑なにそう信じていた』
ストーリーそのものは、わからない。その後、果たして彼女が帰ってきたのかも、そもそも絵が完成したのかも。
その時は外国の恋愛映画というのが何だか気恥ずかしくてすぐにテレビを消してしまったからだ。
絵が出来れば恋人が帰ってくると思い込んだ男。そう信じて希望を持たなければ、たぶん生きてはいけなかっただろう青年。
俺はそんな思い詰めた気持ちでチョコレートを作った訳じゃない。
でも、チョコレートを完成させれば、何かが変わってくれると、頑なに信じていた。自分でも、笑ってしまうくらいに、強く。
「このチョコが出来たら、リボーンと昔みたいに……」
こつん、と頭だけを預けた冷蔵庫の扉は無機質で何の感慨もなく固かった。
チョコレート密度