抱きしめられた時点ですでに気付いていた事だった。彼が酔って自分と妹を間違えているなんて。
妹の京子は気立てがよくて優しい子だった。ツナの自慢であったし、守るべきものの象徴だった。それは彼女が結婚し、京子のナイト役が他の男になったとしても変わらない。
はにかむ笑顔、揺れる優しげな瞳。自分とよく似た、だが違う妹。
彼女の事で綱吉がショックを受けた時が二回ある。
一つ目が紹介したい人がいるの、と現在では綱吉の義弟となったコロネロを紹介された時。一番婚約に反対したのも一番結婚式で泣いていたのも綱吉だった。
二つ目が二年前、京子が事故にあった時。
−−……そして彼女は帰らぬ人となった。
「コロネロ……?」
泣きそうな整った顔を優しく撫でる。京子が好きだと言っていた彼の青い瞳。俺も綺麗だと思ったがなぜか京子に悪い気がして口にした事はない。
背中越しの床は固くて冷たい。なんだか自分が追い詰められているように感じてしまう。視界に広がるコロネロの顔も思い詰めたようで少し怖い。金髪から覗かれる背景は天井で、照明がなぜか空々しく思った。
「ぃ……」
「……何…?」
「好きなんだ……!!」
己を壊してしまうんじゃないかと思うくらい強く抱いてくる逞しい身体は酒の匂いを纏っていた。
それもビールとかではなく、高級そうなワインの香りだったから、彼らしいと少し笑ってしまった。武骨な癖にどこか潔癖なコロネロには安い酒は似合わない。
「愛してるんだ」
「……私も」
『私』なんて女言葉は使いたくない。だけど、そんなプライド以上にコロネロに嫌われたくないという想いがあった。
彼は綱吉の上唇を軽く啄み、少し離した後で深く口づけてきた。口内に広がる甘ったるいワインの味に「ほら、やっぱり」なんて思った。
「愛してるぜ、コラ……」
「うん。知ってるよ」
「好きなんだ。ずっと…」
朱く色づいた唇から白い喉元へと熱い舌が伝っていく。その軌跡を身体中で感じて綱吉は息を詰める。
「…っ…コロネロ…」
カリッとちょうど喉仏の辺りを甘噛みされて吐息が漏れる。反射的に背中を反ってしまったから余計に身体を密着させ、首をコロネロに晒す形になった。
「怖いよ……コロネロ…」
「守ってやるよ。お前を、絶対」
守ってやる、と囁きながら熱い舌がどんどん下へと綱吉の身体を這う。コロネロが怖いんだよ、と思いながらもその言葉に喜ぶ自分もいた。
「あ、あ……コロネロ…」
「愛してる。大丈夫だから…」
何が大丈夫なんだよ。こっちは毎回毎回腰やら何やらが痛いってのに。自分のした事も忘れて呑気にしてる癖に。
わかってる。し、わかってない。
コロネロは俺と京子を間違えている。酔っていて、普段隠している分、彼女を失った悲しさに耐え切れないだけ。
でも、与えられる温もりに涙が出そうになる俺は、この罪深さをまだ理解出来ていないのかもしれない。
「もっと愛して……」
この独りよがりの罪を忘れられるくらい強く。
。
そう、これは恋じゃない。