パラレル 君と一人で眠る夜。 兄が、明日家を出る。 結婚するだとか、両親の離婚とか、家出でもなく、単に大学の近くのアパートに引っ越すのだ。 「受からなきゃ良かったのに」兄の頑張りを見てきたにも関わらず、ツナは積み上げられていく段ボールを見つめてそう思った。 二つ上の兄であるコロネロは、ツナにとって自慢だった。小さい頃からツナを大切にしてくれたし、成長してからは父親よりも頼もしい存在だった。 昔からかっこよくて運動神経も凄くて要領だって悪くない。そんな兄とツナが気の毒そうに比べられる事もあったが、二人は気にした事はなかった。 「……どーしても出てくの?」 積み重なった段ボールを軽く蹴ってツナが呟いた。コンッと中身の軽そうな音がした。 「突然どうした、コラ」 コロネロがベッドに腰掛けながら答えた。はあっと溜め息を尽きながら、そのまま俯いてしまった。相当疲れているらしい。 「……だってさ、なんか、納得いかない」 金色の髪がさらりと流れていくのをツナは見つめる。 キラキラ。 そう、ツナにとって兄はキラキラした存在だったのだ。それは憧れや親愛が混ざり合ったような感情だった。 「なんで納得しねーんだコラ。俺に二時間かけて大学行けってか?」 「……それは……わかってるけど」 「じゃあ何が不満なんだコラ」とコロネロはまた溜め息を着いた。ツナは恨めしげに兄を見つめるしか出来ない。 「っ……とにかく、もう寝ろ。お前、俺の見送りにも寝坊するつもりかコラ!!」 シッシッと犬猫を追い払うかのように邪険にされる。 「ひどいよ、可愛い弟にその態度……」 わざと泣きまねをするがコロネロの機嫌が悪くなっただけだった。 なんだか、今日は特に不機嫌じゃないか…?とツナは思った。醸し出されるオーラがなんだか黒い。 「え〜、あ〜……怒ってる?」 「ああ」 「そーですか……」 「だってさ、え〜、だって……」とぶつぶつごねるツナに、コロネロは困ったように眉じりを下げた。 「……もう、決めた事なんだ、コラ」 「コロ兄……」 ツナだって兄のそんな姿が見たい訳じゃない。困られてしまった事に居心地が悪くなりつつ、ツナは言葉を続けた。 「じゃあ、今日は一緒に寝たい。……昔みたいに」 「………あ?」 頬を少し赤らめてコロネロがツナを見つめ返した。弟の突拍子のない要求に動揺を隠せないようだった。 コロネロがごくりと喉を鳴らす音が、やけに静かな室内に響いた。 「な、なんでだ、コラ!!」 「なんでって……思い出作り、かな」 「ダメ?」と首を傾げるツナに、コロネロはさらに焦り出す。 「だっダメに決まってんだろコラぁ!!」 「え〜」 「絶対、ダメだ!!」 頑なに拒むコロネロに、ツナは拗ねたように唇を尖らせた。高校ニ年生の男子には見えない。 「……いーよ、じゃあおやすみ!!バイバイ!!」 「ちょっツナ!!」 バタン!!と大きな音を立てて扉が閉まった。 段ボールが並べられた部屋に一人残ったコロネロは、舌打ちをして白いシーツの海へ飛び込んだ。 君と一人で眠る夜。 /// 典型的な やまなし おちなし いみなし 。 [戻る] |