「ダメツナ、京子とは別れろ」
「・・・えぇ?」
ツナは訳がわからないというように、眉を潜めながら笑った。
「何度も言わせるな。京子と、別れろ。あの女を愛しているんならな」
これは、気まぐれで言ったのではなかった。かなり前、それこそ教え子の恋が成就した瞬間から考えていた事だ。
また、どのようにいえばツナが諦めるのかを、毎日十分に注意しながら考えていた。おそらく、暗殺するときよりもこの時の為に時間を割いた。
「リボーン・・・・・京子は、俺の事情を分かってくれているよ。」
俺の方が、はるかにお前を理解している。
「俺を、支えようと、してくれている。」
俺は、お前を支えていないと?
「なぁ、リボーン。なんでだよ。俺は、京子ちゃんが好きなんだ。」
俺もお前が好きだ。愛してる。
たぶん、お前の好きな『京子ちゃん』よりずっと。
「京子は、わかってはいても、受け容れているのか?」
ツナが苦しそうに目を細めた。
「京子は、最後まで、ボンゴレのお前を支えきれるのか?」
今度は組んでいた指が強張った。あと、すこしだ。
「お前が京子を好きなのは知っている。当たり前のことだ。京子も、お前が好きだ。俺の教えのお陰だな。」
口の端を上げ、俺は余裕に見えるように笑った。
実際は、京子に嫉妬していた。 ツナの好きな『京子ちゃん』を維持するだけで、あいつの愛情を一身に受けられる。
純粋で優しい『京子ちゃん』はもういないのに。
いるのは、大人になった『京子』だけだ。
純粋さは、現実を知って、無償の信頼という複雑なものになった。
たしかに、優しい所は変わらない。ただ、誰にでも平等に優しくは出来なくなっただけだ。
「・・・・最近、ミルフィオーレが何かと目障りだ。奴らも日本に通いっぱなしみたいだな」
これが、切り札だった。
「・・・京子は、俺が、守る、よ?」
「京子にとって、お前と別れる以上の安全確保があるのか?」
ツナの瞳が、切なげに揺れた。 そして息を殺すように俯いたかと思うと苦しげに溜め息をついた。視線を床に注ぎながら、おもむろに口を開く。
「・・・・リボーン」
「なんだ?」
「明日、日本に行けるように手配して。あと、ホテル。」
「・・・・ツナ」
「大丈夫だよ。男ならさ、誰だって最後はきめたいじゃん。」
堕ちた
「京子が別れたくないと言ったら?」
「何がなんでも別れる」
「京子が、それでも友達でいようと言ったら?」
「うーん・・・一応頷くけど、すぐに連絡を絶つよ。」
「了平はなんて言うだろうな?」
「お兄さんならわかってくれると思うけど?」
「ホテルは?」
「思い出作り用。人前で修羅場は嫌だし。もしかしたら、本当に思い出作るかも。ね?」
「・・・・・・それじゃ、この俺が直々に用意してやるよ」
内心ほくそ笑みながら、部屋を後にしようとする。
「リボーン」
「なんだ?」
「これでお前は満足なのか?俺は、お前のことも愛しているよ?」
「・・・・意味がわかんねぇな」
「・・・いや、なんでもないよ。」
そういってツナは笑った。
悲しげだった訳ではない。しっかりとした、王者の微笑みだったのに、ツナを遠くに感じた。
その数週間後、外界でノン・トゥリニセッテが放出していることが発覚。
又その数日後、ツナが銃殺された。
俺も死んだ。
嫉妬を噛み殺して