溺れそう。
溺れそうで苦しい。
ああ、どうしてこうなったのかは判らないが、俺は今、文字通り捕われている。
「……お願いだから、離してくれよ」
「嫌です」
「離せ」
俺はそう言って、自分を抱きしめている彼を押し退けようと胸を押すが、たいした成果はなかった。
同じ生物、同じ男である筈なのに、この力の差はなに。
もどかしさと体の強張りから目尻に溜まった雫を、彼がゆっくりと舐め取った。
「離してしまった、君が逃げてしまうでしょう?」
「逃げて、彼の元へ行くでしょう」と、さも可笑しそうに笑ったあいつを、俺は渾身の力で突き飛ばす。震える脚を一生懸命動かし、死に物狂いで逃げた。
愛しいあの人の元へ帰ろうと走る。速く速く。俺の足よ、逃げ切って。
だかふと、アイツが追い掛けて来ない事に危ぶみ後ろを振り返ってしまった。
すると、あいつの綺麗なオッドアイから涙が流れ、呆然と、まるで人形の様に立っていた。
感情のない人形。先程は悪魔だったという、自我さえ持っていないようなマネキン。
俺は、出口を見つめた。
そしてあいつを見つめた。
俺は出口に背を向けて、無情で純粋な征服者の元へ帰って行った。
溺れそう。
溺れそうで苦しい。
だから、離さないで。
絡め囚えられる。
//
またまた小話リサイクル。
ツナの行動がいみふめい。