彼は真っ直ぐ前を向いて喋る。時々、俺の目を見ながら笑う。ニカッと。太陽みたいに。
俺はそんなふうには、笑えない。だからこそ憧れた。
隣で歩く君。今日は獄寺君がイタリアに帰っていて、二人だけの帰り道。
君は、遠くを見ている。
視線どころか、意識までも遠くに。
俺は、そんな君の隣を歩く。
「なぁ、ツナ」
「なに?山本」
話し相手は俺だけど、君の頭の中には彼しかいない。そう気付いても、もはや傷付かなくなってきた。いや、そう自己暗示をしているだけ。
「・・・・獄寺いねぇと、淋しいな」
「そうだね」
うん。君は淋しいよね。
君のその台詞で、俺の心も淋しくなったよ。
体は、何度も同じ所を傷付けられればそこだけ皮膚が強くなると聞いた事がある。じゃあ、心はどうなんだろう。何回も痛みを堪えていれば、いずれ感情は麻痺するだろうか。
「やっぱ、三人でいるのが、好きだな」
山本は、獄寺君と居たいんだろ。ああ、まだ心は麻痺してくれない。
「うん。獄寺君、早く帰ってきて欲しいな」
でも獄寺君は山本が嫌いだから、絶対に二人きりにはなりたくない筈だ。ああ、今度は傷口から真っ黒い血が流れていく。
獄寺君は俺が好きで、俺は山本が好きで、山本は獄寺君が好き。
笑えるほどに息苦しい関係。
互いに刺を持っていて、少しでも近づくと傷がついてしまう。
「帰って来たら、またカラオケでパー!!っと遊ぼうな!!」
「あはは」
ごめんね。
俺達の優しさが打算を含んでいると、俺は言い出す事は出来ないよ。
だから、俺は家に帰って一人、涙を流して傷を癒す。
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小話においてたやつを延ばしてみました。