心地いい訳じゃない。
だが振りほどくのが面倒な圧力に搦め捕られている。
体が、やけに軽い。だが、怠くもある。
ああ、今の自分はなんて不安定な存在なんだろう。
ふっと気がつくと見覚えのある、というより覚え過ぎている部屋にいた。いつの間に俺は移動したのだろう。
「リボーン……」
マジマジと懐かしい室内を見ていると、ベッド付近で俺を呼ぶ声がした。見れば、不釣り合いな黒いスーツを着た男が仰向けになっていた。
ああ、ツナか……。
リボーン、とツナが泣いていた。
泣くな、と呟くがアイツは苦しそうに涙を流す。
俺の声はもはや、ツナには届かない。
今、俺はお前が寝そべるベッドの横に立ち、お前のグシャグシャな泣き顔を見下ろしているのに。
こんなに近くにいるのに。
ツナの揺れる琥珀は俺を通り過ぎ天井を見ていた。
ふいに、細い指が俺に触れるように伸ばされる。だが俺はそれを掴む事は出来ない。行き場の無くなった指が落胆を込めて落ちていく。
琥珀色の瞳が恨めしげに俺を見つめた気がした。だが、ツナは俺に気付いてはくれない。
「、リボーン!」
ツナが叫ぶように俺の名前を呼ぶ。だがそれは持ち主を捜した響きではなかった。
「リボーン………」
ツナがゆっくりと目をつぶり、そのまま静かに泣いていた。未だ丸みを残している頬が涙に濡れて煌めいていた。俺はただ見下ろすしか出来ない。
「、なんでだよ……」
「ツナ………」
俺は耐え切れなくなって、ツナの冷えているであろう頬に触れた。いや、触れようとした。
だが役に立たない俺の指はアイツの体をすりぬけた。
「リボーン……」
ツナが瞼をあげたので、俺はさっとアイツから離れた。見つかるのを恐れたのではなく、今のツナの泣き顔を見たくなかったのだ。
「好きだって、言おうと思ってたんだよ……俺」
ずっとずっとリボーンが好きだって。
ツナはまるで懺悔するように呟いた。俺は答える事は出来ない。
「なんで、愛し合えなかったんだろ、俺達」
いっつもすれ違ってばっかだ。とツナは笑った。泣きながら笑った。
今の俺には、その涙を拭えない事が、堪らなく悔しかった。
今も、今までも、これからも、お前に幸せになって欲しかったのに。
そんな顔を俺のせいでしてほしくはなかった。
始まりはこの部屋だった。
終わりは異郷の敵地だった。
そして俺達はこの部屋に戻って、始まる事が赦されなかった恋に終止符を打つのだ。
最初で最期の懺悔
自分一人しかいない筈の室内で、ツナは確かに二人分の泣き声を聞いた。
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リボーンは、ゆうれいです。
メモより加筆。