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novel
曇のち 晴れ。カカナル




「もう抑えきれナイんです。ナルト、俺と付き合って。」




云った俺の口は緊張で情けない程に震えていた――――





曇のち 晴れ





その日は朝から曇天で、何時降り出してもおかしくない天気だった。

珍しく任務が無いのにも関わらず、カカシは何時も絶対と言う程しない早起きをして、重い頭を抱えていた。

―――曇の日は頭痛が酷くなる。
幾ら頭痛薬を飲もうとも駄目。

ズキ、ズキ

…どーにかならないのこの頭。昔はこんなの無かったのになぁ。


この頭痛が始まったのは…俺がナルトに逢った時から。
これだけは鮮明に覚えてる。

初めて逢った時は凄く、衝撃的だった。

誰もが目を奪われるその金髪に、透き通った蒼の瞳。

それに――

眩しい笑顔。

……綺麗だ。

第一印象がそれだった。

その時、軽い頭痛を感じたのを覚えてる。
その頭痛はナルトに逢う度、その笑顔を見る度に酷くなっていった。

「――っは。可笑しいんじゃねーの、俺。」


教え子に――こんな身勝手な感情を抱くなんて


最初は自分の中に芽生えた感情を認めなかった。

否、認めたくはなかった。

けれどそれは只の醜い抵抗にしか過ぎず、逢う度逢う度に肥大化していく感情に押し潰されていき、…同時に頭痛も酷くなっていった。


頭痛の原因は解ってる。
だが治す方法は解らない。

きっと原因を解決すれば治まるんだろうが―――。

けれど、それを行えばどうなるか。

――それだけは避けたい。

今の関係…教え子と教師と言う関係を突き崩してまでこの身勝手な感情を伝えたくはなかった。
今のままでいい。

幾ら頭痛が酷くなろうとも、これだけは…絶対に言ってはならない。

頭痛が酷くなり、自分で抑制出来なくなればあいつの前から姿を消そう、

そう考えてた。

―――どうやら俺には理性がまだ潰されず残ってたらしい。

―――――だけど。

「…―――自信ナイなぁ」

自分の不甲斐なさに涙が出る。こんなに自分の理性も制御出来ない情けない男だったの、オレ。


ピーンポーン


玄関のチャイムが鳴る。
休みの日に―――こうして尋ねてくるのは大低同僚のアスマかファンクラブ(非公認)の女達だろう。
アスマだったら突き返すとして――女だったらどう断ろう……等と重い頭を抱えながら玄関の扉をゆっくりと開ける。

そこには


思い掛けない人物が立っていた。


「カ、カカシせんせぇ……」

「っ、ナルト…どうしたの」

痛みが、少し増した。

「あ、えっと昨日の任務でカカシ先生ずっと頭抱えてて…それでっ風邪でも引いたんじゃねぇかって……気になって来たんだってば」

ズキ、ズキ と痛みが増してゆく。

「……っつ」

「カッカカシ先生!大丈夫だってば!?」

その場にしゃがみ込むカカシにナルトは慌てふためく。
ナルトがカカシの肩を掴み様子を見る為カカシの顔を除き見た。

途端、カカシのその痛みは甘美な痛みに変わった。

「………」

「カ…カカシ先生……?」
ナルトは怪訝な表情で、尚も心配そうな蒼瞳で見詰める。
吸い込まれそうなその瞳を見た瞬間

――――何かが崩れた。

「……ごめん、ナルト」

「…へ…?」

今の関係がどうなろうと構わない。自分を縛る、下らない偽善的な感情は捨ててしまえ。


「――…オレ、もう抑えられないんデス。ナルト。俺と付き合って。」

玄関先で、座り込みながらナルトに言い放った。

あ〜あ。言っちゃった。これで断られたらど〜すんの、俺。
少なくともこの子の前にはいられない。いや、この里にも居られないんじゃないの。

しかもナニ。こんなところで告白だなんて。滑稽すぎるデショ。馬鹿だなぁ自分。


「………なっ……えっ?!」

大きな瞳をぱちぱちさせ今だ事態が飲み込めてないナルトに微笑みながら

「だぁかぁら〜。俺、ずっとナルトのコトが大好きで大好きで悩んでて。その事を考える度頭痛が酷くなって。どうすればいいんだろーとか悩んでたらナルトが尋ねてきて理性がぶっとんで告白してしまいマシタ。」

「は!?」

聞いていたナルトから素っ頓狂な声が飛び出し、たちまち耳まで真っ赤になる愛しい子狐に理性が吹っ飛んだ割には緊張してたらしい自分の神経が緩むのがわかった。


「ちょ…好きとか……おっ俺男だってばよ?!」

羞恥で声が裏返るナルトが可愛くて。

「知ってるっつうの。男とか女とかそんなの関係ないデショ。ナルトだから好きなの。」

「……うー…」

「ナルトは俺の事、好き?」

「……す…」

「す?」

「…………好…き……かも?」

「…どっちなの」

「っう……すっ好きだってばよ……」

え。


マジですか。

消え入りそうな声だったけど、確かに聞いた。

ナルトは俺の事が好き。
それは紛れも無い真実で。

今でも飛び上がりそうなほどの心臓と気持ちを抑え、

カカシは真っ赤になった顔を必死で隠すナルトの手を優しく外し、その潤んでいる蒼眼を見詰めて、

「俺も、ナルトの事が大好きだよ。」

と、呟いた。








―――さっきまで、雨の降りそうな曇天だった空が嘘の様に快晴になっていった。




「――そういえばカカシ先生」

カカシ宅のソファーに座ってカカシが入れたホットミルクを啜りながらナルトは問うた。



「ん?何。ナルト?」

「頭痛、もう大丈夫なんだってば?」


「――――――あ。」



いつの間にか頭痛は治まっていた。


…代わりに、愛しい痛みが全身を覆っていた―――――。

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