白石君の違和感
ない子に別れを告げてからの俺はいつもとなにも変わらない生活を送っていた。何度かない子から電話があったけど全部無視。今さら話すことなど何もない。もうあいつとは終わったんや。
「白石君?おーい!」
ひたすら会社のパソコンを打ち込んでいたら後ろから肩を叩かれて振り向く
「さ、佐々木さん」
「もー!何回か呼んだと思ってるの?」
「す、すまん。集中してて気付かんかったわ」
「もう!」
少し剥れていた佐々木さんだったがすぐに笑顔に戻り持っていた一枚の資料を差し出してきた
「なんや、コレ」
「毎年恒例の営業部での行事のボーリング大会の詳細!目を通しといてね」
「あー!そういえばそんな行事あったなー」
「言っとくけど私ボーリングにはかなり自信があるから負けないわよ」
「俺かてボーリングは得意分野や。絶対に負けへんで」
そう言ってお互いに微笑み合う。
「あ、そや!あれから大丈夫か?」
「あれから」とは佐々木さんの書類事件のことだ。あの女性社員達からまたいやがらせを受けてないか心配だったから問いかけてみる
「うん。あれから何もないから大丈夫だよ!心配してくれてありがとう」
「さよか。それならよかったわ」
「それに社会に出たらこんなこと日常茶飯事なんだし、いちいち凹んでたらキリないよ!」
「…せやな。でも何かあったら言うんやで!」
「ありがと!てか私から言わせれば白石君の方が心配だよ」
「は?なんでや?」
「ここ数日間何かを必死で忘れようとしながら仕事に打ち込んでる風にみえたから」
佐々木さんの言葉に思考が止まった。
「そう…みえた…?」
「うん!あまり煮詰めすぎちゃ駄目だよー!息抜きも兼ねてボーリング大会楽しもうね」
そう言って佐々木さんは自分の席へと戻って行った。
俺の心に違和感を残して
―――――――
「「ストラーイク」」
ボーリング場に活気ある歓声が響いた。今は毎年行われる恒例のボーリング大会の真っ只中。社員達は普段から抱え込んでいる仕事の圧力から解放されたかのように楽しんでいた。
「盛り上がってるねー」
「せやな」
一通り楽しんだ俺は一休みも兼ねてレーンが見渡せるベンチに腰掛けていた。隣には佐々木さんも座っている。そういえば大学時代はよく謙也やない子とこのボーリング場に遊びに来とったっけ。ない子がよくガーター連発で謙也に馬鹿にされとったな。
ふとそんなことを思い出して笑みがこぼれる。
「白石くん?どうしたの?」
「あっ!な、なんでもないわ」
思い出に浸ってたら不意に隣にいた佐々木さんに呼びかけられる。一気に現実に引き戻された。
「最近やたらボケーッとしてるね。なんかあったの?」
「や!ほんま大丈夫やから」
「そっか…なにかあったら言ってよ?」
「おん。ありがとな」
佐々木さんはほんまいい子や。やけど佐々木さんが隣に座ってるこの現状に違和感を感じる。それに最近胸にポッカリと穴が空いてるこの感覚はなんやろ?まさかない子と別れたのが原因か?いやいや絶対そんなことはありえん。それに自分から別れを切り出したんや。後悔はない。でもこの得体の知らない寂しさはなんなんや…
「悪い。俺帰るわ…」
「え!?ちょっと白石君!?」
自問自答を繰り返していたら頭がいたくなり、佐々木さんに一言告げてボーリング場を出た。きっと最近働き詰めやったから疲れ取るだけやろ。明日は休みやし家帰ったらゆっくり休も。
――――――
失ってから初めて気付くことってありますよね。
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