干物女の決心
蔵ノ介に別れを告げられてからの私は抜け殻になっていた。底辺生活を送ってた以上に無気力になり食事も喉を通らない。あれからもう一度話したくて何回も蔵ノ介に電話をしてみたけど一回も電話に出てくれるこはなかった
あんなに怒った蔵ノ介初めてみた…
でも、そこまで蔵ノ介を怒らせるようなことをしちゃったのは私だ…
どうしよう…どうしたらいいんだろ…
布団に死んだように体をうつ伏せたまま考えを巡らせる
「蔵ノ介…」
涙はとっくに枯れ果てたはずなのにまた瞳から涙が溢れてきた。
―――ピーンポーン
そんな時真っ暗なこの一室にチャイム音が鳴り響いた。まさか蔵ノ介!?そんな期待を抱き布団から飛び起きて玄関の扉を開ける
そこにいたのは…
「よう、干物女!」
「久しぶりっスね。ない子さん」
片手にたこ焼きを持った謙也と後輩の財前君だった。
―――――――………
「だから言うたやん!」
「はい…」
蔵ノ介に別れを告げられたあの日の経緯を謙也と財前君に話したら案の定謙也に叱られた。やっぱりあん時謙也の言う事聞いとけばよかった…
「謙也は蔵ノ介と会ってる?」
「一昨日会ったで」
「!私のことなんか言ってた?」
「お前とは別れた言うとっただけでそれ以外のことは何も言うてなかったで」
「そ…そっか」
もう本当に私のことどうでもよくなっちゃったんだね。謙也が悪いわけじゃないけど謙也の言葉に暗い表情を浮かべて俯いた。
「てか少しは反省しとるんっスか、自分」
そんな私の心情を見抜いてかたこ焼きをつまみながら問いかけてくる財前君の言葉に顔を上げる
「え?」
「白石先輩が怒るのも無理ないですわ。自分は必死で働いとるのにも関わらず彼女はいつまでたってもニート生活から抜けだす気配はない。俺でも嫌ですわ、そんな女。自分ががんばっとるんに彼女がそんなんとかバカバカしいじゃないっスか」
「そ、それは」
「白石先輩の優しさに甘えとったんとちゃいますか?そんな寄りかかりの関係じゃ終わりがくるのは当たり前っスよ」
「……」
財前君の意見は全て正しかった。蔵ノ介が怒らないのをいい事に危機感を持たずグータラ生活を続けて…まったく蔵ノ介のことなんて考えてなかった。
今さら悔しさがこみ上げてきた。
失ってから気付くなんて本当バカすぎる…
「ま、やっとない子も今までの駄目人間っぷりに気付いたことやしこれから就活本格的に頑張りや!」
私を元気付けようと明るく背中を叩いてくる謙也
「就職先決まったら蔵ノ介戻ってきてくれるかな?」
「当たり前やん!きっと戻ってくる「ありえないっスわ」
謙也の言葉を遮り私の希望を打ち砕く一言を言い放った財前君
「ちょ!なに言い出すんや、財前」
慌ててフォローに入る謙也を無視して財前君は話を続けた
「ない子さんは白石先輩に戻ってきてほしいから就活始めるんっスか?そんな気持ちで就活に挑んでも絶対就職なんかできへんし白石先輩も戻ってこないっスよ」
「じゃあどうすればいいって言うの!?」
財前君の言葉にイラッとしたから怒鳴るように声を荒げる。そんな私に怯むこともなく話し続ける財前君。
「就職って自分のためにするもんやろ?仮にない子さんが就職決まったとしてもそんな誰かにすがった気持ちでいるうちは仕事なんて絶対続かへん。」
核心を突かれた。財前君の真っ当な意見に私は何も言えなくなる。
「何かを頑張る気持ち。今のあんたにはそれが欠落してるようにみえますわ」
「何かを…頑張る…気持ち?」
「それさえ身につければ相手を思いやる心も一緒についてくると思いますよ」
「……」
言いたい事を言い切って気が済んだのかそのまま立ち上がると財前君は扉を空けてそのまま部屋を出て行った
「ちょ!待てや、財前!」
焦って財前君の後ろを追いかける謙也。玄関から扉の閉まる音が聞こえた。2人とも帰ってしまったようだ。
何かを頑張る気持ちかぁ…そういえば大学を卒業してからはそんな気持ち忘れてた気がする…
今思えば前の会社をクビになってからの就活で面接を落とされまくった理由ってそれが欠落していたからなのかな
あの時はとにかく仕事探さなきゃって焦りしかなくてそれ以外のことはまったく考えてなかった。そういうの全て面接官の人に見透かされていたのかもね
「…よし!!」
決心をしたように私は立ち上がった
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