白石君の絶交宣言
あれから午前の作業も終えて昼休憩に入った。いつもならこの時間は遠藤と昼食をとってる白石だが、佐々木の様子が気になったから遠藤の約束を断って佐々木を探しに会社内を必死に走り回ってる最中なのだった。
「どこ行ったんや…」
一通り探し回ったがどこにも佐々木さんはいない。
後、探してない場所といえば…
「屋上や!」
そう言って勢い良く階段を駆け上がった
キー…と重い屋上の扉を開いたら目の前にはフェンスにしがみつきながらこちら側に背中を向けてる佐々木さんの姿があった
「佐々木さん…」
こういう時は一人にしておくのが一番だと頭ではわかっていながらも、どこかほっとけない気持ちがあって気がついた時には無意識に声をかけていた
「白石君?」
こっちを振り向いた佐々木さんの顔は予想外にいつもと変わらない普通の表情だった。てっきり落ち込んでるものかと思ったから唖然としてしまった
「あ…色々大変やったみたいやから気になって…」
「あぁ、さっきのこと?心配かけちゃってごめんね!」
「それはええんやけど、大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫!今、必死に探してるし必ず今日中に見つけてみせるから!!」
「でも昨日まではあったんやろ?それにいつもきちんと管理しとるんにいきなりなくなるなんておかしないか?」
「うーん…でもなくなったってことはやっぱり私の管理不足だったわけだし私のミスなのには変わらないよ。」
「でも、」
「本当大丈夫だから!」
腑に落ちない俺の言葉を遮り笑顔でいい放つ佐々木さん。きっぱりと言い放つその笑顔にもうなにも言えなくなった。
「何かあったら抱え込まずに言うんやで?」
「うん。ありがと白石君!」
強い女性やなぁ。やけど、何か俺に力になれることはないんやろうか…
気丈な佐々木さんに感心すると同時に何も出来ない自分の無力さに腹が立った
――――――……
もやもやの気分を抱えたまま軽く昼食を済ませて作業場に戻ってる途中に給湯室から複数の女性社員の話し声が聞こえてきた
これから午後の作業が始まるっちゅーのになに無駄話しとんねん
そんな事を思いながら通り過ぎようとした瞬間…
「部長に怒られていた佐々木の顔見たぁ?」
「マジざまぁみろって感じだよねー!」
佐々木さんの悪口が耳に入ってきた。なんや…こんな狭い空間で悪口大会かい。やっぱり女は醜いな。呆れて再びその場を通り過ぎようとした瞬間衝撃的な一言が胸を貫いた
「なくなった書類を隠したのも私達なのにねー」
「そんなことも知らずに探し回っちゃってマジ笑えるー!」
「ちょっとキレイで仕事が出来るからって周りにチヤホヤされちゃってさー絶対いい気になってるからお仕置きだよね」
「「あはははははは」」
扉の外で聞いてて怒りがこみ上げてきて手が震えた。やっかみで人の仕事の邪魔をするなんてそんだけ性根くさっとんねん
醜い笑い声を掻き消すようにそのまま怒り任せに給湯室の扉を開いた。
「し、白石さん!?」
「随分おもしろそうな話ししとるやん、自分ら」
目の前で驚いた表情を浮かべてる醜い女達に怒りに歪んだ冷笑を浮かべた
――――――――………
「佐々木さん!」
佐々木さんは資料室にいると他の社員から聞いて、資料室の扉を勢い良く開けた。いきなり俺が入ってきたことにより吃驚している佐々木さん。
未だに必死に書類を探していたのか床にはバラバラになった複数の書類が散らばっていた
「ど、どうしたの白石君。そんなに慌てて…」
「あったで書類!これやろ?」
手元に持っていた書類を差し出すと驚いたように目を見開く佐々木さん
「ど、どうしたのこれ…?」
「あ、他の社員が管理しとった書類に挟まっとったんや」
「そう…」
さすがに佐々木さんをやっかんでいた女社員が隠してたことは言えへんよな…咄嗟に嘘をついてしまった
「ありがとう、白石君!…でもね、」
笑顔で書類を受け取った佐々木さんの表情が段々曇っていく
「本当は知ってたの。この書類が隠されてたこと。もちろん隠した人達も」
「!?」
佐々木さんの衝撃的な言葉に全身に電流が走った
「実は、前々から何度かこういう出来事があったの。彼女達が私に対して悪い印象を抱いてたことも気付いてた。だから仕事を頑張ればいつかはわかってくれると思ってたんだけど」
「……」
「やっぱりちょっと考えが甘かったかな」
今にも消えてしまいそうな笑みを浮かべる佐々木さんの瞳には涙が滲んでいた。
仕事に関してどんな辛いことがあっても決して弱音なんて吐かなかったのに
この小さな体で彼女はどれくらいの辛さを抱えこんでいたのだろう
気がついた頃にはその小さな体を包みこむように抱きしめていた
「し、白石君!?」
「こうしてれば泣いてる顔見えへんやろ?」
「う、うん。ありがと…!」
―――――――………
今日の出来事の余韻に浸りながら帰路につく
佐々木さん大丈夫やろうか…
思えば今日一日佐々木さんのことばかり考えとる気がする
自宅のマンションに到着してそのまま自分の部屋に向かったら人影が見えた
「…ない子?」
部屋の前に立っていたのはない子だった。
「お仕事お疲れ様。もー連絡しても折り返しがないから会いにきちゃったよ!」
「連絡?」
携帯を取り出してみたら3件の不在着信があった
全然気づかんかったわ…
「最近全然会えなかったしこうなったらもう無理矢理会いにいっちゃおうと思って!家にひきこもってても暇だしねー」
家にひきこもってても?
お前また就活もせんと家でグータラしとったんか?
ほんま…いい加減にせぇや…
「そうか。…ない子…わざわざ来て貰ってほんまに悪いんやけど帰ってくれへん?」
「…え?」
「今日はもう疲れとるんや」
「ちょっ!せっかく来たのにそんな言い方しなくても、」
鍵を開けて部屋に入ってく俺の腕をお構いなしに引っ張るない子。そんなない子の自分よがりな行為に何かがプツンと切れた
「疲れとる言うてるやろ!?家でいつも寝てばっかりのお前に社会人の苦労がわかるんか!?」
「く、蔵ノ介…?」
いきなり怒鳴りだす俺に困惑するない子
「会うたび会うたびなんの進歩もないお前を見て俺がなにも思わんと思うとったんか!?お前の怠けた姿を見るのももううんざりや!」
「…ご、ごめんなさい」
「その場しのぎのごめんなさいももう聞き飽きたわ」
「本当に今度から頑張るからそんなに怒らないでよ!ねっ?」
「お前の今度はいつなんや?ええ加減俺も我慢の限界や」
「蔵…?」
今にも泣きそうなない子をお構いなしに俺は今の2人の関係の終止符を打つ一言を放った。
「別れよ、俺ら」
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