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白石君のオフィスライフ






嵐は突然やってきた。







「東京本社から異動してきた佐々木京華くんだ」

「佐々木京華と申します。至らない部分はあると思いますがよろしくお願いします」


営業部の一室に新たな人物を歓迎するかのように拍手が沸き起こった。この会社に入社して1年。二度目の桜が満開なこの季節を迎えたと同時にあっという間に通過した1年という月日の速さを改めて実感した。


「彼女は東京本社で最も多くの売り上げに貢献した優秀な社員だ。この大阪支部でも即戦力になってくれるだろう」

前々からこの部署に優秀な社員が異動してくるって噂は聞いとったけど、まさか女性だったとは…。俺も負けてられへんなと目の前で微笑む佐々木さんを見てこれからの仕事生活に心躍らせた


それからの佐々木さんの働きぶりはまさに周りの社員を唸らせるもので、佐々木さんが加わってからのこの部署は昨日までとは一変して活気づいていた。


「すごいな…俺らじゃ絶対に通らなかったあの案件も電話一本で軽く済ませてしもうたで」


難しい仕事をあっさりこなした佐々木さんの姿を見て関心するように声を荒げた。



「さすが部長の評価が高いだけあるなぁ」

「ええなぁーああいう女性。いい意味で刺激になるわ」

「あれー?白石君は佐々木さんみたいな人がタイプなん?」

「あほ。そういう意味で言ったんちゃうわ。それに俺彼女おるし」

「あぁ、あのニートの子?」

「…今は就活中やから厳密に言えば無職や」

「どっちも変わらへんやろ!!お前みたいないい男にはニート女はもったいないで。佐々木さんでええやん!美人やし」

「無駄話しはここまでや。早く自分の作業に戻りなさい」

「へーい」


そう言って再び持っていた書類に手をつける同期の遠藤。こいつとは研修中も配置された部も一緒だったということで一番語り合える間柄だ。仕事中はそうでもないがアフターで飲みに行った際に手がかかる所が学生時代に面倒を見ていたごんたくれと被っていた。どうも自分を取り巻く人間関係は自分の彼女といい手のかかる人間が多い。これも自分の性(さが)から呼び寄せてるものなのか…

「ま、別に悪い気はせぇへんけど」

「は?なんか言った?」

白石の独り言の意味合いに自分も含まれてるとは思わず素っ頓狂な声をあげる遠藤だった。








―――――………






「あっかんわ…」

昼食も済ませて午後の作業に取り掛かった時に事件は起きた。



部長からある書類を取引先に届けに行くよう頼まれたのだ。

だが、目の前には今日中に仕上げなければいけない案件が山ほどある。取引先は電車で行くと往復1時間の距離。部長からの頼まれごとを引き受けたら間違いなく自分が抱えてる仕事にロスが出る。だが、部長もこの部署で1、2を争うほどの優秀な白石には多くの期待を寄せている。取引先の人間からも白石は気に入られているため円滑に仕事を勧めてく為には白石自身も断れない状況だと理解してそのまま部長の頼みごとを引き受けてしまったのだった。


「いや、今考え込んでるこの時間は無駄や。とりあえず今から会社を出て走って駅まで行けば、」

「白石さん、どうしました?」

焦って書類を片手に一室を出ようとした瞬間佐々木さんに話しかけられる

「部長から預かりものを頼まれたのでこれからこの書類を○○(駅名)の取引先に届けに行ってきます」

「え!?そんな所まで!?それに白石さん多くの案件抱えてるみたいだけど抜けちゃって大丈夫なの?」

「いつもお世話になってるお得意さまなので…案件も必ず今日中に終わらせるんで大丈夫ですよ」

本当は全然大丈夫じゃないけど、引き受けてしまったからには仕方ない。

それよりも今こうして会話してる時間が無駄や

時間に追われて段々苛々してきた俺の気持ちを察してか、そんな気持ちを打ち消すような一言を佐々木さんが発した


「そっか…じゃあ白石さんが抱えてる案件私が変わりにやっとくよ!」

「え!?」

佐々木さんの思いもよらなかった一言に目を大きく見開いた


「で、でも佐々木さんも自分の仕事あるやろ…?俺やったらほんまに大丈夫やから」

思わず敬語から普段の言葉使いになる

「それなら大丈夫!自分の仕事はほとんど済ませてあるから。」

「いや、でも」

「もー!人の厚意には素直に甘えなさい!」


しどろもどろになってる俺に痺れを切らしたのかビシッと笑顔でいい放つ佐々木さん。


「じゃ、じゃあ頼みます!必ずお礼はしますんで」

「ありがと!そんなことより早く行かなくて大丈夫?」


佐々木さんの言葉にハッとして時計を見ると電車の時間がすでにせまっていた


「あっかんわ!じゃあ申し訳ないけど頼みます!」

そう言って駆け足で駅に向かった


「ふふっ!しっかりしてるように見えて案外そそっかしい一面もあるのね」


焦ってその場を去った白石の姿に可笑しそうに肩を震わせていた京華なのであった。



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あきゅろす。
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