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干物女と白石君


「まだかなー謙也」


仕事が終わって帰ろうとしたら久々に謙也から電話が掛かってきた。飲みのお誘いかなと思って電話に出てみると用件は港公園に来てくれとのことだった。そんな所に来いとかめずらしーと思いつつも呼び出した本人よりも先に到着してしまった私。てか自分から呼び出しておいて遅刻とかどういうこと?中々謙也が来ないことに苛立っていたら後から足音が聞こえてきた。


「おそーい謙也!」


剥れながら後ろを振り返ったらそこには予想もしなかった人物が立っていた



「く、蔵ノ介…?」


そこにいたのは1年前に別れたはずの蔵ノ介だった。な、なんでこんな所に蔵ノ介がいるの!?予想外の展開に頭が混乱した




「久しぶりやな、ない子」

「ど、どうして!?謙也は?」

「謙也は来ーへんよ。なんや?謙也の方がよかったんか?」


そう言って意地悪な笑みを浮かべてくる蔵ノ介。


「ち、ちがうから!!」

「ハハ、相変わらずおもろいなない子は。さっき見た時は別人かとおもうたけどそういう所変わってなくて安心したわ」

「そ、そう?」


えへへと愛想笑いを浮かべるも未だにこの現状に頭が追いつかない。蔵ノ介はなんで今さら私に会いに来たの?もしかしてさっきの発注ミスの件のお礼?それだったら別に改めなくても良かったのに…。そんなことを考えてたら蔵ノ介に会えて嬉しいはずなのに何故だか残念な気持ちになった。



「ここよく2人できたな」

「え!?う、うん」


いきなりそんなことを言って一面に広がる真っ暗な夜の海を眺める蔵ノ介。その表情は昔を懐かしんでるように見えた。




ザザー…と波の音が微かに聞こえる。その波の音を聞きながらしばらく空白の時間が流れた。するとそれを打ち破るように蔵ノ介が口を開いた。



「今日はほんまにありがと。助かったわ」



やっぱりこの用件か。



「あ、全然だよ!てかこっちもごめんね。あの部長頑固だからさー」

「いや、全然気にしてへんよ。…遅くなったけど就職おめでと!がんばったやん」

「ありがとう。じゃ、用件はこれだけだよね!?それじゃ」

「待てや!どこ行くん?」


いそいそとその場を去ろうとした瞬間後ろから腕を引っ張られる。


「え…?だって蔵ノ介の用事って今日のお礼でしょ?別に改めなくてよかったのに!」


あははと作り笑いを浮かべる。自分で言ってて泣きそうだ。だが、そんな私の予想を覆すことを蔵ノ介は口にした


「それもあったけど、それが本題やない」

「…え?」

「とにかく座れや」


隣に座るよう促されて戸惑いながらも隣に座った


「…ない子。これから話すことに気悪くせんといてや」

「う、うん」


蔵ノ介の顔つきが変わった。これから話す事はそれほど重大な事なんだと察して私も真剣に聞く体制に入った


「去年のこの時期に俺から別れを告げたあん時、気がたっとったんもあったけど、実は他に気になる人がおったんや。さっき俺の隣におった佐々木さんっておったやろ?その人や」


突然聞かされたあの日の真相に心臓が大きく脈を打った。


「そ、そうなんだ…」

内心ショックを受けつつも隣にいる蔵ノ介に悟れないように必死に抑えた。


「佐々木さんは仕事にストイックで気も利いてとにかく何もかもが完璧な人やった。でもその反面どこか危なっかしい人で俺はそんな彼女を放っておけんかった」


そっか…。そんな魅力的で頑張り屋の人が身近にいたんじゃグータラ生活を送っていた私なんかに愛想を尽かすのも当然だよね…。あの頃の自分を戒めるようにスーツの裾を強く握る。


「けど、後になってそれは恋心じゃなくて憧れからくる感情やったことに気付いたんや。それに仕事仲間助けたい思うんわ自然なことやろ」

「じゃ、じゃあ心変わりしたわけじゃなかったの?」

「最初は俺もそう錯覚しとったけどちがうんや。それに気付いたのはない子と別れたのがきっかけやった」

「え?」

「ない子と別れてからの俺は最初の頃はぶっちゃげ清々しとったけど時間が経つにつれて胸にポッカリ穴が空いたような感覚になったんや。それはきっとない子とおったのが当たり前やったからやと思う。それに気付かないふりをしながらひたすら仕事に打ち込んだ。せやけど考えないようにしようとすればする程お前のこと忘れられんくなって…抜け出せんようになってしもうた」


今にも壊れそうに語り続ける蔵ノ介を見て喉の奥になにか熱いものがこみ上げてきた。やばい…泣いちゃいそう…。


「一方的に別れを告げたのは俺なんに今さらこんな話しして堪忍な。…今さら都合良すぎるのもわかっとる。自分勝手なんも承知しとるけどこれだけは伝えたかった」

「…蔵…っ…」



気がついた頃には頬に涙が伝っていた




「好きや、ない子」





二度と聞けないだろうと思っていた蔵ノ介の言葉に涙が止まらなくなる。一年前のあの日から死にもの狂いで頑張って…やっと…やっと報われたんだ―――…




「私も…私も今まで蔵ノ介を忘れた日はなかった…今でも…大好き」


そう言った瞬間いきなり視界が暗くなってきつく抱きしめられた。



「また…俺とやり直してくれるか…?」

「もちろん…!」















―――――………




「もー!一時はどうなることだろうって心配してた時期もあったけどほんまによかったなー」

「せやな!ま、あん時別れたことがきっかけでない子も成長できたんやしよかったやん」




大安吉日の某日。周りの協力を受けて再び恋人同士に戻った白石とない子。それからも色んな出来事があったがなんとか2人で乗り越え2年の年月を飛び越えてついに今日というこの日に結婚式を迎えた。



「それにしても、教会ってなんか落ち着かんわ」

辺りをキョロキョロと見渡す謙也。そんな謙也に肘鉄を食らわす香澄

「子供みたいなことせんといて。恥ずかしいやん」

「教会が落ち着かないって…謙也先輩なんかやましい事でもあるんですか?」

「ばっ!あるはずないやんそんなこと!」

財前に怒鳴り散らす謙也

「しっ!はじまるで」

香澄が小声で2人に注意を促すと教会の大きな扉が開いた。眩しい光と共にウェディングドレスに身を包んだ
ない子とない子に腕を掴まれた父親が現れた



「なんや、馬子にも衣装やな。めっちゃキレイやん」

めずらしくない子に見とれる謙也。

「せやな!いつもジャージ姿やったない子からは想像つかへん姿や」

憎まれ口を叩く親友の香澄もない子の晴れ姿は嬉しいようだった。



祝福してくれる友人の横を通り過ぎたらこれからの二人の門出に手を差し伸べるように、タキシード姿の蔵ノ介が笑顔で迎えてくれた。




「白石蔵ノ介。健やかなる時も病める時も死が2人を別つまで夫婦でいることを誓いますか?」

「誓います」

「どうしようもない子。健やかなる時も病める時も死が2人を別つまで夫婦でいることを誓いますか?」

「誓います」


「それでは誓いのキスを」



神父さんの言葉に蔵ノ介に顔が見えるようにベールを上にあげられる。そのまま目が合うと優しい笑みを向けてくれた。そのままお互いに顔を近づけて口付けを交わす。





これからも蔵ノ介の事を全身全霊かけて支えていくから






これからもずっとずっと傍にいてね






〜fin〜










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