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干物女の底辺生活


「あれー今何時だ?」と枕元に置いてあった携帯を布団から手を伸ばして手探りで探しだす。風が冷たくなってきたこの時期は人肌が恋しくなるというけど、私にとってはそんな事は関係なく布団が恋しくなる季節だった。携帯が手に当たった感触がしてそのまま布団の中に引きずり込み中で開く。

「やべ、もう昼過ぎか。寝すぎた…」

携帯の画面には14:40分の文字。深夜から某笑顔動画に夢中になっていたら気がついたら朝方になっていたのだ。寝たのは勿論朝。大学を卒業してからの私は勤めていた会社を遅刻、居眠りでクビになり就活を名目にして親の仕送りを当てに暮らしている、所謂ニートって奴だ。クビになった直後の時は、危機感から必死で就活を頑張っていたがこのご時世だ。何社面接を受けても結果は不採用。段々馬鹿らしくなってきた私は開き直って駄目人間を貫き通すことを決めたのだ。お陰で体内時計は狂ってしまい一般の人達が活動している時間は寝ていて夜から活動する生活に逆転してしまったのだった。

そんな私にも一応彼氏はいるわけで、その彼は一流企業に勤めているエリートで学生時代はファンクラブがあった程の男前。彼女の贔屓目じゃなく、多々共に認めるいい男なのだ。



だが、周りがこんないい男の彼と私が付き合ってるのを黙って見ているわけがなく…これから私に待ち受けているのは二人の仲を脅かす過酷な出来事だった―――






















「やだー、またスッピンで来たん?」

『化粧すんのダルかったんだもん』

「いくら地元だからって、気抜きすぎとちゃうん?」


起きてからもダラダラ寝巻き姿のままテレビを見ていた所、友達カップルの香澄と謙也に地元の居酒屋に呼び出された私。準備するのがだるかったから適当に髪だけ梳かして寝巻き姿のジャージの上にコートだけ羽織ったその姿のままで登場した。普段から見た目に気を使ってるリア充の二人は当然私のこのやる気のない姿を見て呆れ果てた顔を浮かべた。

「あんたさー、仮にも女やろ?ちょっとは見た目気にした方がいいんとちゃう?」

『遠出する時はちゃんと化粧もするし、服も着替えるもん』

「はぁー、俺絶対こんな女嫌やわ。俺の彼女が香澄で本当よかったわ」

「やだー!謙也たらもう!」

「やっぱ、女の子は華やかな子が一番や!」


目の前でイチャつきだすこのバカップルを見て、元々少ない私の気力が更に削られていく。てか、謙也。私もあんたみたいな彼女バカこっちからお断りだよ!

「そういえば今日、白石君も来るの?」

「仕事終わってから来るいうとったわ」

お、蔵ノ介も来るのか。そう!今、香澄が口に出した白石こと白石蔵ノ介。彼が私の彼氏なのだ。


『やだー、蔵ノ介来るんなら言ってよー!そしたらせめてファンデーションぐらいはつけてきたのに』

「一番スッピン晒しとる相手に今さら何ぬかす、アホ!」

「今じゃ、白石君も一流企業務めのエリートかぁ。大学ん時から優秀だったし尊敬しちゃう」

香澄がサラダを人数分盛り付けながら、語る。その手際の良さ、いい奥さんになるよ!うん。


「はぁー。なんで白石みたいないい男がお前みたいのと付きおうとるんやろうなぁ」

『うるさい、謙也!あっありがと香澄』

盛り付けられたサラダを受け取りフォークで串刺しにして口の中に入れる。

「ぶっちゃげ私も謙也と同じ意見やわ。あんたまた今日も朝までパソコンいじくって昼まで寝てたんとちゃう?」

『(ギクッ)ち、ちがうよ!今日はちゃんと朝に起きて履歴書を10枚ぐらい書いてたんだから…』

語尾が段々小さくなってく私に疑いの眼差しを向ける二人。大学時代からの付き合いだから私の嘘を見抜く程うちらの人間関係は出来上がっていた。


「お前、そのうち愛想尽かされても知らんでぇ?」

『なっ!縁起悪い事言わないでよ、バカ謙也』

「そうやなー。あの真面目な白石君がなんであんたみたいな女と付き合ってるのか不思議でたまらんもん」

『か、香澄まで…。だーいじょうぶだって!なんだかんだでラブラブなんだし余計な心配必要なっしんぐ』

「その内痛い目みても知らんで」

なーにさ、なにさ!言いたい放題言ってくれちゃって!こっちはこっちで上手くやってるんだから余計な口出ししないで欲しいわ!


「すまん!遅くなった」

「おーっ!待っとったで、白石ぃ」

「お疲れ、白石君!」

二人の説教に剥れ顔になっていた私の後ろからスーツ姿の蔵ノ介が到着した。私の隣に鞄を置いて上着を脱ぎながら座る。普段から見慣れてるはずの蔵ノ介の姿も、仕事帰りでスーツ姿の蔵ノ介の姿はなんだか新鮮で一段とかっこよく見えた。


「仕事の方はどうや?」

「ようやく慣れてきたわ。あ、俺ビール」

了解と言って店員さんに注文表を見ながらビールを注文する香澄。ない子は?と聞かれたから、私もビールでと、頼んだ


「聞いてや、白石。またこいつ昼までぐーたら寝とったんよ」

『ばっ!謙也』


やばっと思い、慌てて隣を見ると案の定蔵ノ介は眉間に皺を寄せた険しい表情でこっちを見ていた。


「就活は?」

『い、いま…さがしてるとこ…』


しゃーないなーと呆れ果てた表情を浮かべて話しを切り上げてくれたけど、今は友達がこの場にいるから空気を壊さないように怒らなかっただけで帰り道はきっと魔の説教タイムが待ち構えてるだろう。そのことを考えると背中に嫌な汗が伝った。

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あきゅろす。
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