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NO.1



……―――――――





風が頬をなでる。
ピリピリとした冷たさを残してそれは過ぎていった。
そしてコートの襟をつかむと冷えた首もとを温める。


寒空の下で白い息を吐き出すと
あまり人が多くない道を通り、俺は待ち合わせ場所まで足を速めた。










――…カラン カラン .


ドアの上にある鈴が綺麗な音をたてる…
落ち着いた雰囲気のこの店はいつもと同じで少し安心した。


その音に気付いたのか、読んでいた本から目をそらし…俺の姿を見つけるとそいつは軽く手を挙げた。



店の一番奥の角。



窓から見る、人が通るだけの何気ない景色が好きだった。

いつの間にか俺たちの特等席になったその場所で、またいつもの椅子にアイツは腰かけていた。





『…ごめんな、サク。待ったか?』

『いや別に。』


20分くらい?と付け足すと、本にしおりを挟んだ。
俺は苦笑いすると、もう一度謝った。



『悪いな、奢るから許せ』


『あぁ。そのつもりだ』

俺は、そう。とだけ返してウェイターに珈琲を二つ頼んだ。



『ンだよケチだな〜』

『もう昼食ったんだろ?』


はは、と笑うと
なんだか昔を思い出して、
懐かしくなった。





ぶつぶついう朔夜を俺はメニューを戻しながらあしらう。




『…久しぶりだな。』

『あぁ。』



朔夜の言う、『久しぶり』という響きもだいぶ久しぶりだ。

こいつとは高校からの親友だった。大学も同じで、選んだ学部が同じだったのも…自然とした流れだった。


あわせたわけじゃない。
俺たちは似ていたから、そうなったんだと思う。



『…お袋さんの墓参りだろ?』



俺は運ばれてきた珈琲をすすると、
朔夜の椅子の横にある花を見ながら呟いた。


『……、』


『……もう一年か。』



俺がつぶやくと、朔夜は
少し複雑な顔をして珈琲に
口をつけた。



『‥珍しいな、聞かないのか。』



朔夜は俺と目を合わさずに
昔と変わらない、少し乾いた
笑顔を見せた。


きっと、今の状況について
言ってるのだろう。


だいぶ会っていなかったから。

今どこに住んでいる、とか
大学はどう、とか
好きな女は出来たか、とか。




――――『‥あぁ。』




俺はまた、
珈琲を一口すする。





何かあれば言えよ、とか

隠し事するなよ、とか。

そんなことばかり言ってた
俺も少しは成長したらしい。


‥昔は自分の大切な奴が
一人で抱え込むのが
とてつもなく嫌だった。


無理にでも話をさせて、
自分に吐き出してくれれば
それでいい、なんて。


結局あれは
自分のエゴだったのに。






『‥…で?話ってなに。』



そっけなく返した返事に
朔夜はそれ以上のことに
ついて聞いてこようとはしなかった。



昔から‥余計な事は
きこうとしない。朔夜の
そんな所が俺にとって、
とても居心地が良かった。



‥俺も少し、ホッとした。







――――‥‥店のなかで
笑いあう人たち。





俺たちがまだ高校の頃は
まだここもそんなに
賑やかではなかった。





‥時代と共に人も移ろう。


よく有名とかを“時の人”
とか言うけど、
それもまた一瞬で。


ただ巡るのは季節だけじゃ
ないってことを、


俺は今どこか
客観的に考えていた。





だから当たり前のように、


当たり前じゃないことを


‥‥当たり前に言う。






『‥うん、俺さ









‥‥‥移植。して
もらおうと思って』








朔夜は相変わらず視線は
下にむいたままで、


聞こえてないのかと
思ったけれど、


持っていた
カップを下に置いたから‥


言葉は届いたのだとわかった。





今みたいな‥
とんでもない発言をしても、
いつも動揺しない朔夜の







そんな性格も好きだった。





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