NO.12
――――
―――――‥え?
一瞬‥、櫂の言った意味が‥よくわからなかった。
目の前には‥微笑む櫂。
その目は昔とまったく同じで、なんだか急に‥懐かしくなる。
――『‥かい‥?』
‥思わず、そう 呟いた。
目があったままそらせず、そしてそこには,とてつもなく長い時間が確かに在った気がした。
その空間は冷たくて‥こわばったまま作り笑いさえ出来ない。
――‥ポタッ
涙が‥溢れた。
何も言わず、ただ目が合ったまま静止する俺たちは――‥
どんなふうに見えるだろう?
―‥『龍にい』
静かな静かな声がした。
俺はピクリとも動かずに、ただ櫂の顔だけを呆然と見続けた。
―『龍にい‥もういいんだよ。』
櫂が少しだけ目を細める‥
それがとても悲しそうに見えた。
その間でも俺は何も言えなくて‥
――『もう‥一人で泣かないでいいんだ龍にい。』
言われた意味が‥わからなかった。
櫂の顔を見るだけで精一杯で、「何故」とか「なにが」とか,そういうことがすぐ頭に浮かんでこなかったんだ。
――‥『もう俺は‥大丈夫だから。』
櫂は微笑みを浮かべながら、俺の頭をくしゃっと撫でた。
頭におかれた手の広さに,俺はまた 泣きそうになった。
本来俺がその役割をするはずなのに‥櫂の手は大きくて。
頭にのった手が肩に移動しても,それは気のせいなんかじゃないと思い知らされる。
櫂はまるで別人のようだった。
――‥あぁ もう子供じゃないんだな。
肩のかすかな温もりを感じながら,そんなことを思い知らされたようだった。
――涙が枯れると人どうなる?
そんなことを、
ふと 思った。
櫂は気づいていたのだろうか。
俺の肩の上にある櫂の手が、
‥‥とてもかすかに震えていることを。
時が止まったかのようにただ時は流れる。
こんな時でさえ‥針を進めることをやめようとしない電波時計をうとましく思った。
‥‥‥‥‥本当は
櫂を泣かせてやりたかった。
みっともなくていい、
誰が見てても。
ただ櫂が今ここで思いきり泣ければいいのに、と‥俺は少しだけ思った。
泣かせないのは俺のクセに。
そんな責任感のないことを、今更思う。
――‥いつの間にか
櫂を閉じ込めて出せなくしていたのは
他でもない。俺だったんだ‥。
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