NO.8
――‥『コト‥』
龍にいは、花瓶をチェストの上に置くとベッドの脇の椅子へ静かに腰をおろした。
――『あ、‥花…ありがと』
―…『‥‥うん、』
龍にいは‥短く返事を返すと、小さく笑って俺から視線を反らした。
―‥…龍にい‥?
――‥病室に入ってきてから‥何も、しゃべってない。
龍にいは、俺が病院の玄関先で見てからしばらくして病室に戻ってきた。
―‥「なんだよ龍にい、きちんと花瓶に花なんかいれてさ!!」
そう、言うつもりだった。
でも..ここへ入ってきてから、龍にいは何も言わない...
指に指を絡めて、じっと俯いたまま思考が停止してる...
龍にいが何かを考え込んでいる時はいつもそうだった。一人で抱え込んで,絶対に無理をする。
ずっと一緒にいたから、わかる。
父さんと母さんが死んだときもそうだった..
気を使って、俺の前だから無理して笑ってたんだと思う。
――‥‥それでも,その間でもずっと笑顔で明るかったのに...
俺は龍にいのこんな姿を今初めて知った。
‥‥俺が‥なんか話さなくちゃ‥、
――‥『櫂‥』
―『‥‥‥ん!?』
少しの間、あった無言。
そんなことを考えていたとき、口火をきったのは龍にいの方だった。
『どしたの龍にい?』
――『‥‥』
また、無言。
俺は少し身を乗り出すように言葉を待った。
龍にいがいつもの調子に戻る気がして。
俺は「会話」ってゆうそんな当たり前なことが...、それがほんの少しだけ嬉しく感じた。
『龍にい?』
『‥‥、』
龍にいはしゃべらない。
俯いていた顔からまた、光が消えていった気がした。
‥‥‥あ!
俺は少し考えると、頭の中で自分なりに納得のいく理由が浮かび上がってきた。
龍にいがまた指に指を絡めてるのがみえる..
悩んだときの龍にいのいつものクセが、なんだかちょっと滑稽にさえ見えたんだ....
――‥『たーつ兄!!なに落ちてんだよ〜
‥‥あれだろ?俺に花買ってきてないのバレたから、カッコ悪くて顔向けできないんだろ!?』
積み重ねるように、言葉を紡ぐ。
『バッかだなー龍にい!!俺初めからわかってたんだぜ!!今更ぜんぜんそんなん....』
――‥‥え?
窓の外に..ちらつく雪が。
「誰か‥‥、
嘘っていってくれ‥‥」
それがどんどん降り積もって
――‥「ダレカ...」
一瞬‥‥‥
父さんと、母さんが.....瞼の奥に...映った気がした。
――‥「ドウシテ?」
俯くように座っていた龍にい。
母さんに...よく似てる。
肌が白くて綺麗だった。
俺が羨ましがった
その頬は
流した涙で‥‥濡れていたんだ。
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