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NO.6









――『‥はぁ……』


誰もいない病室、俺のため息だけが静かにこぼれた。


――“龍にい遅いな‥。”



俺は壁にかかった時計を見てまたため息をつく。


龍にいが病室を出てもう40分はたつ。バイトを休んでまでいきなり面会に来たと思ったら‥


来た早々に花瓶を持って出ていった龍にい。



―…『花なんか持ってなかったくせに‥。』


俺は呟くと、ベッドの脇に置いてあった鞄の中から手探りでいつも部屋に飾ってあった写真立てをひっぱりだす。


龍にいにとってきてほしい,と頼んだものをきちんと覚えておいてくれてたみたいだ。


少し古ぼけたその中には‥俺がまだ中学生だったとき、家族みんなで撮った写真が入っていた。



―‥『…幸せそうに笑ってら。』



写真立ての中から静かに微笑む母さんと、龍にいと俺の頭を掴んで子供みたいに笑う父さん‥。


俺は自嘲ぎみに笑うと写真をガラス越しになぞった。



そうだ‥
この時はまだ俺たちは,何処にでもいる平凡な家族だった。
笑って泣いてを繰り返して、それでもずっと仲良くいられた。






――それなのに…。



もう考えまいとしていた事。こんな状態になってしまうと嫌でも思ってしまう‥







俺は写真を横のチェストに置くと目を閉じた。



母さんと父さんと龍にいと俺、



……もう一度だけ名前を読んでみたかった。ただ何気ない生活の一部だっていい‥望むのは『普通』のことなのに。



――‥「もう父さんたちには会えない」



わかってた。わかってたからこそ認めたくなかった






もう一度窓の外を見る。


ただなんとなく鳥のさえずりがもう一度聴きたいとおもった。



窓の外を見ると、花を買ってきたのか
下に何かの束をかかえながら病院に入ってくる龍にいが見えた。



――‥「わざわざ買ってこなくてよかったのに」


俺はそう思うと、とっさに花瓶を持って病室を後にした龍にいの心情がわかった気がした‥



―‥「櫂‥」



龍にいの優しい声が頭の中で響く。







『……ふ‥っ‥』










涙が        でてきた。




「もう泣かない」なんて、「へーきだよ」なんていえたもんじゃない。



手は震えて

視界もボヤける。





『死』というものの存在が






こんなにも大きい。















――‥ごめん龍にい。


俺さ‥




拭いきれない涙が頬を伝い下に落ちる。
布団にシミを作ったそれはひどく綺麗に見えて。




――‥なぜかとても





悲しくなった。




――‥「俺さ、‥」






囁くように
言葉がでた






『龍にい俺…
















怖いかもしれない。』















震えながら呟いた言葉。











病室に響く俺の声は



















誰よりもか細くて
























誰よりも……





儚げだった。








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あきゅろす。
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