NO.3
――『…っ…櫂…』
俺の視線の先には…
一日ぶりに顔をあわせた櫂が立っていた。
たった一日だったのに…何故かとてつもなく長い時間、櫂にあっていなかった気がした。
『龍にい…?』
もう一度、櫂が俺を呼ぶ。なんだこの状況は…
検査用の服に身を包んだ櫂がいて、その目は確実に俺をとらえてる。
医師の胸ぐらを掴んで、その手はみっともなく震えてて。
…―本当、なんだこの状況。
視線だけでも逃げ出したくてたまらないのに、なぜか俺は櫂から目をはなせなかった。
『…櫂…お前…っ』
ただ名前を呼ぶことしかできなくて。
声が震えてても、もうどうすることもできなかった…
『龍にい…?どういう事…?』
そう呟いた櫂の声は…
―…泣きたくなるほど
まっすぐだった…。―
あぁ、どうして櫂なんだろう。
借金背負わされて…親をなくして…
次はなんだよ?
櫂が死ぬって…?
俺は床に目を落とし、医師の胸ぐらを掴んでいた手を静かにはなして唇を噛んだ。
血が出るほどに…それだけ強く。
櫂の事実を知ったことで、こんなにも弱くなるなんて…考えてもみなかった。
もしかしたら…櫂には実感も恐怖もないのかもしれない。
ただそれでも…病気は櫂だけを確実に見てて。
櫂もそれと向き合わなくちゃならない…
その真実だけが…どうしようもなく
痛かった。
『…龍にい…。』
…―違う。
『ねぇ、龍にい…』
―…違うって。
『…龍にい、俺…』
違うんだって…言ってやりたい。
『ねぇ龍にい…、』
違うんだって
俺、 死ぬの…?』
いってやりたかった…
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