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NO.2



―…パタン


静かにドアの閉まる音がする。
俺は目を閉じると今見た櫂の瞳を思い出した。


不安そうな目…
当たり前か,俺が櫂をそうさせた。


『“…お兄さんですか!?櫂君が,倒れました!!急いでこちらまで来てください!!”』



きっかけは三日前、櫂が学校で倒れたと電話がはいってから。
風邪なんか滅多にひかないから、俺は勝手に櫂は体が強いヤツだと勘違いしていた。



―…うかつだった。




検査のため、櫂は1日入院することになった。
そして次の日…その名前をきかされた。





“心臓弁膜症”


その名前を聞いたとき、俺の頭は冴えていた。
よくこんな重大な事実をきくと「頭ン中が真っ白になった」って言うけど…俺はほんとに冷静だった



『今なんておっしゃいました…?先生。』



俺はきこえてるクセにわざと聞こえないふりをした。
信じられないとか、そういうのじゃなくて。



ただもう一度聞いてみなきゃ…ダメな気がした。
よくあんだろ?ドラマとかで。病名をきいた瞬間患者の家族がバカみたいに取り乱したりすんの。


俺の近くのベッドでカーテン越しに櫂の規則正しい寝息が聞こえた。
こんな状況でも周りのことがよくわかる。案外俺の心はほんとに冷静らしい。



『“心臓弁膜症”です。』



医師もこんなベタなシーンに慣れているのか,
さっきよりもはっきりとした声で、でもしっかりとした表情で病名を言った。



―――うるせーな,わかってんだよ。



自分で聞いたくせに。俺は心のなかで医師に向かって暴言をはいた。



『…心臓弁膜症‥臓の中にある弁が正常に機能しなくなる疾患の総称です。ほかにも弁膜性心疾患と呼ぶ場合もあります。


説明すると長くなりますが‥ヒトの心臓は内部が4つの部屋,心房・心室に分かれています。
その各部屋の出口には膜でできた弁があり、
血液の逆流を防いでいるんです。

櫂君もこの弁が何らかの原因によって硬化,
もしくは破損し、血液の通過障害や逆流が起きてしまったんでしょう。

‥‥これが心臓弁膜症です。』



淡々とした口調で。でもほんとに櫂の体の真実を…医師はその病気の進行過程を話し出した。



『‥‥心臓には4つの弁があり、障害される弁によって出現する症状が異なりますが‥臓器移植のドナーを探すにはまず‥』






―…プツン










なにかが切れる音がした。




もう



医師の話なんてきこえなかった。








―…『ふ…っふざけんな!!なんでだよ!?なんで櫂がそんな病気なんだよ!!』



俺は今までの冷静
さをいっきに失い,俺は椅子から立ち上がると医師の胸ぐらを掴みあげた。




逆に押さえきれない感情が心の中をどんどん満たしていく。




『移植ってなんだよ!?そんなに悪いのか!?

なあ!櫂はどうなっちまうんだよ!!』





言葉が次々と浮かんできた。





―…なんで櫂が。






それだけだった…
ただそれだけの考えで。



『……早坂さん落ち着いてください。』




胸ぐらを掴まれてる医師は冷静だった。
まるで俺がこうなることを知ってたみたいに…




それが 
余計に俺を苛立たせた。



何もかもわかったような口調で話しやがって。
もう医師の言葉なんて関係なかった。




移植なんかそんな簡単なことじゃないことぐらい俺にだってわかる。
ドナーって奴が見つかったとしても…櫂の体には大きな負担がかかるだろう。





…何だよそれ…倒れてから検査して、すぐに見つかるようなくだらない存在のくせに。




―…医師の胸ぐらをつかんだ手が










みっともなく震えてた…。



そんな病気が…櫂の一生を奪おうとしてる。
その真実だけで、俺は頭がどうにかなりそうだった。



どうせならずっと…このままずっと見つからないでいてほしかった。



何も変わらないとわかっていても…



事実からただ逃げ出しているだけだと知っていても…



それなら…もっと櫂を笑わせられたのに。



出来るなら変わってやりたい。やりきれないおもいでいっぱいだった…


だから…わからなかった。声がするまで。








―…『龍にい…?』











それほどまでに俺は…








自分じゃわからないほど…焦ってたんだ…

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