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03
季節外れの編入生 03


この時、俺は日向さんに心から感謝した。
変装でもしていなければ、ヨルに俺の正体はバレていたはずだ。
今の俺は間違いなく、セツとは程遠い真面目でオタクなイメージの少年程度にしか見えていないだろう。

「ヒメはこっちに座って」
「あ、はい……」

俺は日向さんに促され、四人と向かい合うように日向さんの隣に腰かけた。
まず従兄弟の呉羽が、俺を凝視している。
それは、当たり前の反応かもしれない。
呉羽にとっては、いつも会う度に可愛いと言っていた相手が久々に会ってみれば、どうだ。
以前の面影などどこにもないオタクルックになってしまっているわけなのだから。
一方、美咲という少年を膝の上に乗せた橙色の髪の青年は、俺に興味はないらしい。
ぼんやりしながら、美咲という少年を眺めている。
しかし、膝の上の少年は目を合わさず、俺に視線を注いでいる。
正直言って、何かを見透かされてそうで恐い。
俺はそっと視線を逸らして、ヨルを見た。
ヨルは、俺なんか視界に入らないかのように腕を組んで目線を下げていた。

「じゃあ、自己紹介をしてあげてくれるかな?」

日向さんの一言で呉羽が立ち上がる。
俺の隣に座っている日向さんが、呉羽に目で合図を送っているのがわかった。
何と言っても、呉羽はとてもお喋りで、一度喋り出すと絶対に止まらないのだ。
俺にとっては、歩く拡声器なわけだ。

「従兄弟だから省くけどヒメと同じクラスで生徒会書記やってから……はい、次どーぞ」

なるべく簡潔に言ってくれた呉羽に一安心ってところだ。
あとの問題は、美咲という少年とヨルだけだ。
呉羽の隣にいた俺にとっては、無害な橙色の髪の青年が口を動かす。

「3年S組、森脇 心、風紀委員長をしている」

普段からあまり喋らないであろう森脇先輩は、無表情だった。
眉ひとつ動かさないのには些か驚きはしたが、不快には思わなかった。
美咲という少年が森脇先輩の膝から降りて、俺に向かって満面の笑みを向ける。

「同じく3年S組の生徒会書記、枝川 美咲!心は俺の婚約者だから盗らないでね?」
「盗るとかありえないので安心して下さい」

婚約者だ、ってそれは事実ですか。
だって、ここにいるからには男同士なんですよね。
男同士で婚約って、世の中には複雑な関係の人もいるんだ。
俺はそういう同姓愛とかに偏見はないし、お互いが好きならそれでいいと思う。
ただそれは俺に関係のないところで、巻き込まれないことが前提の話だけれども。

「叶くん、そろそろあの方たちがお見えになる頃だと思うよ」

日向さんがそう言うと、ヨルが目を見開いて驚いた。
俺としても、あの方たちというのは気になるところだ。
あのヨルを驚かせるような凄い人がいたことに、俺が驚きを隠せないぐらいだったわけだし。

「……どうしてあの人たちが?」

ヨルの疑問に日向さんは、ただ笑うだけだった。
その時だった。
扉がノックされて、部屋にいた全員が立ち上がる。
俺も釣られて、立ち上がった。
それほどまでに凄い人物が、この扉の向こう側にいるということなのだろうか。
控えめに開けられた扉から、黒のストライプの入ったスーツを着こなした美形な男性とその男性に腕を絡ませた白いスーツの美人な女性が入って来た。
俺はこの二人を知っている。
以前、どうしても兄たちが出られないからといって、両親に連れて行かれたパーティーの主催者。
そして、世界的大企業を若くして立ち上げ、ここまで伸し上がった叶 優さんとその奥さんの未幸さん。
誰もが知らないはずのない超大物。
しかし、なぜこんなところにそんな人たちがいるのだろうか。

「恭夜、貴方に婚約者殿のご両親をお連れしましたよ」

未幸さんが優しげな視線を向けた先にいたのは、間違いなくヨルだった。
ヨルはもしかして、叶 恭夜なのだろうか。
叶ご夫妻には、ご子息がいる。
そのご子息の名前が、恭夜という。
今まで一度も公式の場に姿を現したことのない人物だ。
それは俺にも言えることだが、俺の場合は四男だから便宜上公式の場に出る必要が全くない。

「奏、美里さん」

優さんが呼んだのは俺の両親と同じ名前だった。
まさかと俺は戸惑いを隠せない。
そんなはずはないと思いたいが、賢い頭が導き出した答えは外れてはいなかった。



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