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先生≠彼 番外編
♯20


ひとりじゃないから。俺が支えるから。けいちゃんにそう励まされて、感傷に流されてた心に一本芯が通った。

ふたりで声を重ねながら読む「花嫁からの手紙」



ラストの一文まで一緒に読んで、ふたり同時に頭を下げた。一瞬会場が静まり返って、それから拍手が広がった。

サービス係の人が持ってきてくれた花束をあたしとけいちゃんは、お互いの両親に手渡す。
うちのお父さんお母さんだけでなくて、けいちゃんのお父さんとお母さんも目を真っ赤にしてた。


「身体だけは大事にしなさい…」

お父さんがぽつっと言って、お母さんはハンカチで目頭を抑えながら、何度も頷いてる。


「お父さんこそ、お酒程々にね」
「お母さんのこと、ちゃんと大事にしてあげてね」
「お母さん、病気に負けないでね」

言いたいこといっぱいいっぱい浮かぶのに、全然声が出なくって。無言で花束を渡して、お母さんの肩に抱きついた。


「お母さん…」
「千帆はお母さんの自慢の娘よ…」

そう言われて、また涙腺決壊して、ぼろぼろ泣いちゃった。せっかく綺麗にしてもらったのに、メイク全部流れてる。


そんな顔のままで、けいちゃんとあたしとお互いの両親――6人並んで、会場の皆様に深々とお辞儀をした。



「けいちゃん、ごめん、やっぱり泣いちゃった…」
「うん。千帆らしくていいんじゃない?」

でも、そう言ってるけいちゃんもちょっと目が赤くなってた。



いろんな思いを乗せて、船はゆっくりと元の桟橋に戻ってきた。あ〜、終わっちゃったんだなあ…。夢みたいな時間。

夕陽に映える横浜港の風景を、のんびり眺めてる暇もなく、新郎新婦(あたし達)はお客様を見送る準備を始める。


けいちゃんとふたりで、ゲストの人ひとりひとり見送る。

主賓の校長先生が最初に出てきた。


「いい式だったね」

そう微笑まれて嬉しくなった。


「学校とは違う遠藤先生が見られて、楽しかったよ」
「ありがとうございます」

校長先生、教頭先生、本田先生…続々とゲストの方が帰っていく。


「学校で、待ってるね、春日さん」

本田先生は謎の言葉と微笑みを残して行った。…学校? けいちゃんに聞きたくても、すぐに次のゲストの方が出てきてて、「ありがとうございました」って挨拶したり写真撮ったり忙しい。


「おう、春日、超楽しかったぞ〜」
「ありがとね、酒井くん」

引き出物を渡すと、「何これ、あんなにうまい飯食って、おみやげもついてくんの? めちゃラッキー」なんて言って、紙袋の中を覗こうとして、七海に怒られてた。


「じゃあ、ちぃ、あとでね」

七海はそう言って、あたしに手を振る。また言われちゃった。


七海たちが最後だったみたいで、あとはもう遠藤と春日の親戚しかいない。スタッフの方にお礼したり、親戚同士で交流したり。


「…けいちゃん、このあと予定…」

『ベイブリッジの見えるホテル、予約したからね〜』とはけいちゃんに聞いてるけど、それ以外ってなんかあったっけ。


あたしが戸惑いながら聞くと、けいちゃんはにっこり笑って、超胡散臭いことを言った。



「あるよ〜。とっておきのサプライズが」

…けいちゃん、いい加減あたしに黙っていろいろ進めちゃう癖、やめてもらえないかなあ…。


「千帆、これに着替えて」

けいちゃんの手荷物から出されたのは、初めて見るワンピース。真っ白でふわふわした生地の可愛らしいもの。


「ど、どうしたの? これ」
「ちょっと前倒しの誕生日プレゼント」
「…これ着て何処に行くの?」
「それはこれからのお楽しみ」

もう一度控室に戻って、今度は髪をもっとカジュアルにアップにしてもらって、落ちたメイクも直して貰った。


「二次会、楽しんでくださいね」

朝とおんなじメイクのお姉さんはあたしを笑顔で送り出してくれたけど…聞いてないんですけど。二次会。


あたしの支度が終わると、けいちゃんももうラフなジャケットとストライプのシャツに着替えてる。


「そのワンピも超可愛い。行こっか、千帆」
「…何処行くの?」
「行けばわかるよ」


けいちゃんはタクシーに乗り込んで、ある場所を告げる。あたしにとっては懐かしい場所。
でも、今更何で? しかも、何で今日?


西日の差し込む車内で、けいちゃんは無言だったから、あたしも黙ったまま、座ってた。懐かしい駅舎、線路沿いの舗道、毎日のように歩いてた道の先に、あたしの通ってた高校が見えてきた。


裏門で降ろしてもらって、あたし達は校舎を見上げるように立った。


「もうみんな来てるのかな?」


スマホの画面を見ながら、けいちゃんは呟く。みんなって…。


結婚式が始まる前みたいに心臓がばくばくし始めてる。…これから何が起こるんだろ。朧気に想像は出来るものの、まさか…って思いも強くって、あたしはごくんと生唾を飲み込んだ。


「懐かしい?」
「うん…」
「俺は毎日来てるからアレだけど」

けいちゃんは慣れた調子で、職員用の玄関から入っていく。


「今日…日曜だよね、入っていいの?」

部活とかの日曜練習でも、校舎内は立ち入らないのはうちの学校のルールだったのに。


「うん、許可貰ってるから平気」

階段に差し掛かったところで、けいちゃんはあたしの手をにぎる。…い、いいのかな…戸惑ってから、思い出した。これ、今朝見た夢みたい。


『みんなにバレちゃうよ?』
『バレたらまずいの?』


夢の中でした会話を思い出した。…そっか。もう隠す必要ないんだよね。握りしめたけいちゃんの左手の薬指にはあたしが作った指輪が嵌ってる。


最上階のいちばん階段の近く。元3年4組の教室が見えてきた。前後の教室のドアの窓には目張りがしてあって、中の様子は見えない。でも、けいちゃんはためらいなくそのドアを開けた。




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