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先生≠彼 番外編
♯4

そう思って本気にしてなかったのに。次の日には忘れてたのに。

けいちゃんの高校が春休みに入った日――あたしは、けいちゃんからある誘いを受ける。


「千帆、今日予定空いてるよね。あとで一緒にみなとみらい行こ?」

朝食のオニオンベーコンブレッドをかじりながら、けいちゃんが言う。今日はふたりともお休みだから、いつもよりゆっくりめの朝ごはん。


「いいけど…何処行くの?」
「何処って…式場抑えないと。あ、みなとみらいより元町とかのがいい? 幾つか教会とかホテルとかゲストハウス、ピックアップしたから見に行こ?」

そう言えば忘れてた。プロポーズもこんなノリだった。


冗談としか思えないことを、本気でやる人だってことを――



「えぇぇぇぇぇっ、けいちゃん、あれ、本気だったの?」

思わずのけぞって叫ぶと、けいちゃんの方が意外そうに眉を上げる。


「え、何、千帆、何だと思ってたの? うん、する、って何回も言ってたじゃん」
「…酔っぱらいの戯言と、ベッドの上の睦言?。どっちも本気にしちゃダメよってお母さんが…」
「千帆、難しい言葉知ってるね」

けいちゃんは意外そうに言ってから。


「じゃあ、しないの? 結婚式」

がっかりして肩を落とす。


「え、しないとは言ってないけど、でも、先立つモノとかいろいろいろいろ…」
「あーまあその辺は、超豪華な挙式とかは無理だけど、今、割りとリーズナブルなプランもあるし。つーか、千帆自身はどうなの? 結婚式したくないの?」
「そんなの…」

決まってるじゃん。あたしの答えなんて、いつだって笑えるくらいシンプル。


「したいっ」

あたしははっきり答えると、勢いづいて、けいちゃんの肩にしがみつく。「っと」と2、3歩後ずさりながら、あたしの身体をけいちゃんは抱きとめる。


「けいちゃん、あたし、10代のうちに結婚式したいな」
「え…」

既に3月の終わり。あたしのハタチの誕生日までは3ヶ月を切っていた――




ものは試し、ってことで、まず訪れたのは、ちょっと前まで日本イチ高いビルの高層階のホテル。最初は得々と施設やプランについて説明してくれた担当のお姉さんは、けいちゃんが希望の日取りを伝えると、明らかに怪訝そうな顔になった。


「6月19日より前の日程での結婚式…と言うのは、今年の、ですよね?」

カレンダーを確認しながら、聞かずもがなの質問をされる。


「え、っと。はい、そうです…」

けいちゃんが頷くと、彼女は何故かじいっとあたしの方に注目してきた。


「失礼ですが、授かり婚などで、なるべく早くお式を挙げたい、とかですか…?」

けいちゃんとあたしは、ぶんぶん顔を横に振る。

そんな的はずれな疑問を抱かせるくらい、無茶な要求だったらしい。今から3ヶ月以内に式を挙げたい、というのは――


以下、みなとみらいや中華街のホテルを幾つかあたってみたけれど、一様に反応はおんなんじだった。



「そんなものなんだねえ」
「まあ、そうだろうねえ」

思いっきり断られたホテルの真ん前の海の見える公園のベンチに座って、あたし達はため息をついた。

春休み中の晴れた1日ということもあって、公園の中は人が多い。上着を脱いだ子どもたちははしゃぎまわってるし、隣のベンチにはまだ付き合い始めっぽいカップルが座ってるし。

空も海も青くて、綺麗なのに、なんだか心はどよんとなった。


けいちゃんの膝の上には、この近辺の主だった式場の連絡先が載ってるけど、軒並み傍線が引かれてる。


「やっぱり無理かな…」
「発想の転換は必要かもね」
「どんな風に?」
「とりあえず、この業界に詳しい人に聞いてみよう」
「って?」

あたしが首を傾げてると、けいちゃんはスマホを取り出して、軽快に話し始めた。


「あ、まさちゃん?」

けいちゃんの従兄弟の遠藤将道さんのところに掛けたらしい。


「わかってる、わかってるって、まさちゃん」
「うん、無理は承知なんだけどさあ」

とかけいちゃんは苦笑いしながら、まさちゃんさんの話に相槌打ってるから、またきっと怒られてるな。


『お前は物事を軽く考えすぎてる』とか何とか。まさちゃんさんには、いろいろお世話になってるけど、この件に関しては、けいちゃんじゃなくてあたしが悪いからなあ…。




「あら、それで見つかったの?」

春休みということをフルに活用して、探しまくった結果、奇跡的に見つけたのだ。値段も演出もロケーションも妥協しないで、結婚式を挙げられる場所。


「うんっ」

仮予約はしてきてしまって、意気揚々とお母さんのところに報告しにきたあたしは、満面の笑顔で頷いた。



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あきゅろす。
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