[携帯モード] [URL送信]

愛の誓いもそこそこに
♯3

次の僕の休みに、僕とありこさんは僕の実家に訪れた。お土産を手に、ありこさんのお父さんにも結婚の了承を得たことを伝えると。

「あら、案外すんなり認めて貰って、良かったわね」

お母さんはあっさりと、頷いた。まるで、僕の撃沈を予想していたかのような、容赦ない台詞は何事?

そして、すぐにありこさんの方に向き直る。

「じゃあ、ありこちゃんは私の娘、ってことよね〜。いいわね〜。私、娘が欲しかったのよ」

今日は平日。だから、茶の間にはお母さんしかいない。

僕の休みに、ありこさんがわざわざ仕事早く切り上げてくれて。せっかく、予定あわせて、わざわざふたりで、報告来たのに、なんだかお母さんは、僕が結婚することよりも、娘が出来ることの方が嬉しいらしい。

「ありこちゃん」

ぎゅっと、ありこさんの手を握って、お母さんは言った。

「あのね、遠慮しないで、何かあったら何でも言ってね」
「は、い…」

ありこさんはお母さんの真剣な眼差しに少し戸惑ったように、頷いた。

「あなたのお母様はもういらっしゃらないし、実家も遠い。結婚生活や育児してる間に、困ることって、幾らでも出てくると思うの。
子どもが熱出したり、ありこちゃん自身が倒れたり。そんな時意外と、男って当てにならないわよ」
「あは…」

ありこさんは僕を横目に苦笑いする。お母さんさ。僕を過少評価しすぎじゃない?いまだ一言も口を挟めないでいる僕のことなんて、お母さんはお構いなし。

「嫁姑のいざこざとか、そういうの私いやなのよ。息子が選んだ人なんだから、信じたいし、好きになりたい。家族になるんだもの。
だから、私を姑だと思わないで。本当のお母さんだと思って何でも言ってね」

ああ、でもありこさんのお父さんが心配していたこと、僕のお母さんもお母さんなりに、考えてくれてたのかな。過剰な干渉もお節介も、ちょっとありがたかったり。やっぱり、親って凄い。伊達に僕らを育ててきたわけじゃないんだなあ。

「お母さんて…アタシの母に似てる気がします」

ありこさんが言うと、お母さんはにっこり微笑んだ。

「光栄だわ。――ありこちゃんはお母さん似?」
「ええ、よく言われます」
「じゃあ、穂積はマザコンね」

仲がいいのはいいんですが、その結づけはやめて欲しい。



「お式はどうするの?」

お母さんに聞かれて、僕とありこさんは顔を見合わせる。

教会式がいいというリクエストは貰ったけど、会場も日程も、まだ、何にも具体的に決めてない…。

「それはこれから」

僕が答えると、「ま、そうよね」とお母さんはひとりごちた。

「ありこちゃんなら、洋装も和装も似合いそうよね〜。あ、志貴の時はね、ホテルで神前式を挙げたのよね」

お母さんは立ち上がると、本棚の上に置いた箱から、写真を取り出してきた。

「ほら、これがその時の写真」

式が始まる前に撮ったのか、椅子に座った白無垢の円香さんと、後ろに羽織で立ってる兄貴の写真。メイクも濃いから、円香さんはいつもと雰囲気違うし、兄貴も緊張してるのか、表情が硬い。

やっぱり、ありこさんはドレスの方が似合いそうだなあ。勝手に円香さんの写真にありこさんを重ねて、僕はそんなことを考える。

「それで、こっちが親族写真」

テーブルの上に広げた別の写真で、ありこさんは僕の姿を見つけて、声をあげた。

「あ、穂積いた。わか〜い」

3年前なんだから、当たり前じゃん.

「あとはこんなのも」

お母さんは続いて、同じ箱から、今度はDVDを取り出した。


[*前へ][次へ#]

3/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!