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だからやさしいくちづけを【完】
♯2

見上げるほど大きな笹の葉は、安定感なくゆらゆら揺れた。

店内の入り口に、笹を飾り、下のテーブルに短冊とペンを置いて、願い事を書いて貰うのは、毎年恒例になっている。


七夕は四日後。それまでここは、願いを込めた短冊を書いたり、七夕パッケージのお菓子を売ったり、そういった季節を感じるコーナーに。

笹と短冊だけじゃ物足りないので、天井から星を吊るしたり、笹に紙で切った飾りを付けたりして。即席簡単七夕コーナー、一丁あがり。



「アンタ本当催事コーナー作るの好きですよね」


誉めているのか、呆れてるのか、売り場を眺めながら、微妙なトーンで、大田が言う。

「好きって言うかさ。毎日同じ売り場じゃ、つまんないじゃん」

確かに好きだけどさ。何処にどの商品並べるか考えて、商品や季節に合わせた飾りつけて、目でも買い物を楽しませるの。綺麗にディスプレイしたところで、売り上げ上がるのか?って、よく店長とかには、皮肉めいたこと言われるけれど、僕の売り場は、僕の好きなようにしたい。


「七夕かあ。俺も願い事書こうかなあ」

珍しく、しょぼくれた大田の台詞に、つい、聞いてしまった。


「何か、あった?」


僕の質問に、大田は僕の肩に抱きつかんばかりにして。

「聞いてくださいよ、相沢さん。彼女が」

と、泣きついてきた。声もデカイし、喋りは大げさだし。

(あんまり、聞きたくない)

そもそも僕に。恋愛相談する方が間違ってる。僕は茜ちゃんに泣きついて。仕事終わってから、3人で、店の近くの居酒屋へ。

カウンターと畳みの座席。手書きの品書きがとっくに色あせて、歴史を感じる古びたいかにも会社帰りのサラリーマンが、行くような店構えに、大田は。

「もっとお洒落なバーとかがいいんすけど」

と、不満をこぼしたけど。

「こういう雑多な店の方が、何でも気兼ねなく話せていいじゃない」

茜ちゃんに諭されて、黙った。



テーブルに置かれた、ジョッキのビールを、すぐに手にすると、大田は、喉を鳴らしながら、それこそ一気に飲み干した。


僕と茜ちゃんは、余りに早い飲みっぷりに、圧倒されて、顔を見合わせる。一気に飲んで、尚飽きたらなさそうな大田の前に、茜ちゃんは、すっと自分のグラスを滑らせた。


「私、ビールより、カクテルの方がいいから、これどうぞ」

そう言って、茜ちゃんは忙しく立ち回っている従業員を一人呼んで、スクリュードライバーと、大田の三杯目のビールを追加する。

週末のせいか、茜ちゃんが連れてきてくれた、ホルモン焼きのお店は満席になっていた。今日のお酒は苦くて、だらだらと続きそうだな…。



――飲んで帰るので遅くなります

僕はそれだけ、ありこさんにメールしておいた。すぐにレスが来て、テーブルの下でこっそり確認する。


――了解。

短い返事だけで、何処で?とか、誰と?とか、突っ込んだ質問がないのは、僕は疑問にも思わなかった。




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