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先生≠彼【完】
♯8


とくとくとく。けいちゃんの鼓動が聞こえる。さっきまで響いてたベッドのスプリングの音も、あたしやけいちゃんの吐息も、ふたりの繋がった部分から放たれる水音も。

まるでなかったことみたいに静かになった部屋で、あたしはけいちゃんの心臓の音だけ聞いてた。


「…けいちゃん、何考えてる?」
「ん。何だろ、これまでのこととか、これからのこと?」
「具体的にプリーズ」
「千帆と初めて会った時のこと思い出したり、千帆の卒業後のこととか考えてた」
「初めて会った時…? 図書館で?」
「うん。あの時の千帆、優しくて可愛くて天使みたいに見えた」
「ちょ、やめて、けいちゃん」

新たな言葉責めプレイ? これはこれで恥ずかしくて悶死しそうなレベル。


「んでさあ、俺、またお前に会いたくて、毎日図書館通って」
「え! あれ、偶然じゃないの?」

ティッシュあげて、ジュース奢って貰って、そのまま別れた。一期一会の出会いかと思ってた。あたしの中でも、けいちゃんはカッコいいけど、ちょっと残念なイケメンとして、強烈に印象づいてたけど。

だからこそ、二度目にその姿を見かけた時は嬉しくて、自分から声掛けちゃったのに。


「違うよ。偶然を装った必然」
「知らなかった」
「うん、恥ずかしいから黙ってた」

しれっとけいちゃんは、あたしの知り得なかった過去を暴露する。


「好きになったの、あたしが先かと思ってた」

だけど好きだなんて言えなくて。映画やドライブにあたしを誘うけいちゃんの気持ちがわからなくて、嬉しさと切なさの天秤がぐらぐら揺れてた頃を思い出す。


「残念でした。俺のが先。まさかお前の学校の教師になって、担任になるなんて想定外の事態だけど、でももしあの時、俺が必死に千帆ともう一度会いたい。強く願わなくても、また会えたのかもしれない。そういうの偶然じゃなくて、運命って言うのかな、って。今、千帆とこうしてるのも、なんか俺の中では全く違和感ないから、やっぱり決まってたことなのかなって、思ってたのはそんなこと」
「けいちゃん、ロマンチック」

あたしが茶化すと、けいちゃんは照れくさいのか、あたしの髪をぐちゃぐちゃにかき乱す。


「もう1回押し倒すよ」
「やぁん、ごめんなさい、無理です、ひりひりしてるし」
「痛かった?」
「うん。でも幸せだった…」
「俺も」

ちゅって、軽くあたしの唇に触れてから、けいちゃんはあたしの頭の下に腕を入れて、肩を抱き寄せる。

さっきはドキドキして眠れない、って思った場所が、今度はほっと出来る場所になってる。何でだろ。

けど、そんな疑問自分の中で解決する暇もなく、けいちゃんの腕に抱かれたまま、あたしは深い眠りの淵に落ちていった。





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