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先生≠彼【完】
♯2


「け、いちゃん…」
「おいで」

けいちゃんがあたしを促す。どうしよう、とか思う余裕もなくて、ふらふらっとけいちゃんの傍に行った。ベッドサイドに立つと、半身を起こしたけいちゃんに、腰を抱かれて、引き寄せられる。


「心配しなくても、千帆が嫌がることはしないから」

そんなこと知ってる。けいちゃんの腕も声もいつも優しくあたしを包んでくれるから。


あたしの頭の下にけいちゃんの腕がしかれて、そのまま肩を抱き寄せられて、あたしの身体はけいちゃんの身体にぴったり寄り添うように、横たえられた。


こ、これって腕枕…?


「お休み、千帆」
「け、けいちゃん…」

これ、無理。絶対寝れない。落ち着いてたはずの心臓が、また暴れだしてる。けいちゃんはこんなの慣れてるのかもしれないけど、あたしはビギナーなのに。


「千帆の身体かちんこちん」

強張って、指一本動かせないあたしをけいちゃんはそう言ってからかう。いつものことってわかってたけど、あたしばっかりドキドキして、ばかみたい。余裕のけいちゃんと余裕ゼロのあたし。経験値の違いから来るんだと思ったら、もやもやして、悲しくなった。


「ど、どうせけいちゃんは、あんな綺麗な人と何回もしてるんだし、いまさらあたしと一緒にベッド入ったくらいじゃ何にも感じないだろうけど、あたしは違うもん」

デートもキスもハグも、全部けいちゃんが初めてで。
けいちゃんに教えてもらったものばっかり。


「お前、こだわるなあ」
「こだわっちゃうよ」

けいちゃんに過去に付き合ってた人がいたことなんてわかってた。でもこれまでは朧げなシルエットでしかなかったのに、イキナリ目の前に元カノそのものが登場してしまうと、よりイメージが具体的になって、あたしの嫉妬は抑えられなくなっちゃう。

今、あたしにしてるみたいに腕枕したのかな、とか。「好きだよ」って何回くらい囁きあったんだろう、とか。


あたしと彼女を比べないで、って。


「ごめんな」

けいちゃんにだって、どうしようもないことなのに、けいちゃんはあたしに謝って、逆だってるあたしの気持ちを宥めるように髪をなでた。

その手が伝えてくれる温もりを、あたしは今独り占めしてるのに、まだ足りないなんて。あたし、何処までワガママで欲張りなんだろう。


「…けど、お前思い違いしてる」

天井を向いてたけいちゃんは、ふいにあたしの方に向きを変える。真正面に向かい合ったと思ったら、パチンと人差し指でおでこを弾かれた。


「いたっ」
「何も感じないわけねえだろ、俺もすっげードキドキしてるよ、千帆」

ぎゅうううっと、けいちゃんはあたしの顔を自分の胸元に押し付けた。とくんとくんと、けいちゃんの鼓動があたしの頬に伝わった。






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あきゅろす。
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