先生≠彼【完】 ♯1 ツインの部屋はけいちゃんがいなくなった途端に、広く寂しく感じた。 バスタオルやアメニティを探してたら、ゆるっとした作りのパジャマの上だけを見つけた。 かなり裾が長くて、肩に合わせて当てると、膝下まで来る。 浴衣はないけど、こういうのはあるんだ。感心しながら、それも持ってユニットタイプのバスルームに入った。 お湯を溜めた浴槽に、自分の身体を埋めた。嫌でも自分の視界に、胸やお腹、足が入ってくる。 小野さん、って言ったっけ。バストはあったけど、そこから下は全部ストンと細いワンピのシルエットに隠れてた。きっと、細い女らしい身体つきなんだろうな。…あたしと、違って。 けいちゃん、あたしのハダカどう思うんだろ、あ、でも1回見られてる。何にも言ってなかったよね? 傍にいられるだけで、うれしいんだから、あんなことまで言わなきゃ良かった…? ぐるぐるとアタマの中をいろんな後悔がめぐってしまう。けいちゃん、早く帰って来て。 いつもの倍くらい時間掛けて身体を洗って、ドライヤーで髪を乾かしてたら、けいちゃんが帰って来た。なんか知らないけど、もの凄い買い物してきてる。ジュースとか、お菓子とか。ふたりしかいないのに、どうして5本もペットボトルあるんだろ。 「千帆、それもこれも好きだよな、と思ったら決めらんなくて。飲まない奴は冷蔵庫入れておいて、明日飲めばいいんじゃない?」 「…う、うん」 じゃあ、このお菓子とかは、いつ食べるつもりなんだろう。 ぽかんとしたままのあたしに軽くキスして、けいちゃんはバスルームに入っていった。 けいちゃんがお風呂出てから、ふたりでお揃いのパジャマ着て、なんとなくやってるテレビを見ながら、お菓子を食べた。 いつもけいちゃんちのアパートにいる時みたい。少しずつ、あたしの緊張が解れてく。 「千帆の初恋っていつだった?」 「えっとね、小学校1年生の時。隼人くんて言ってね、クラスでいちばんカッコイイ男の子だった」 「その頃から、メンクイなんだ」 「ねえ、それけいちゃんが自分で言うのおかしくない?」 「そう? でも俺の顔好きでしょ?」 「顔だけが好きなわけじゃないもん」 「あはは、ありがと」 他愛無い話が楽しくて、朝までだって喋れそうな気がした。多分、沈黙が怖かったんだと思う。 日付が変わって少ししてからけいちゃんが言った。 「そろそろ寝る?」 ベッドは窓側とドア側にひとつずつ。うちであたしが使ってるのよりは大きいけど、ダブルサイズじゃない。 こういう場合って、ひとりひとつずつ…かな。ふたつのベッドを交互に見てたら、またけいちゃんに笑われた。 「千帆が好きな方使っていいよ」 するりと窓側のベッドに身を滑り込ませた。冷たいシーツの感触。違う匂い。眠れそうにないな、って思った。隣のベッドのけいちゃんが、遠い。 「…けいちゃん、寝た?」 「そんなすぐ寝れないよ」 「そうだよね…」 けいちゃんと離れてるのに、あたしの心臓ドキドキしてる。このまま何もないまま、終わっちゃうのかな。ほっとしたような肩透かしを食ったような不思議な気持ち。けいちゃんは、そんなことないのかな。 寝付けなくて、何度か寝返り打ってたら。 「こっち、来る? ただし俺も男だから、その後の言動に責任持てないけど」 冗談めかしたけいちゃんの声が、暗い部屋に響いた。 [次へ#] [戻る] |