先生≠彼【完】
#8
始業式の日は、午前中で放課。教室を出て行くけいちゃんと、一瞬だけ目が合った。あたしの方が先に目を逸らす。
ガラッと引き戸が閉まって、けいちゃんはいなくなってた。はああ〜、と深く深く溜息をつく。疲れた、もんの凄く疲れた。初日からこんなんで、あたし高校生活持つのかな…。
「ちぃ」
今年も同じクラスになった七海が、あたしの席まで来て声を掛ける。
「七海」
「ちぃ、お昼食べて行こうよ」
無邪気な誘い。あたしがいつも話してる残念イケメンのけいちゃんは、今までそこの教壇に立ってた遠藤先生だとは、流石に七海も気づいてないらしい。
「あ…」
あんまりその気になれなくて、あたしは答えを言わないまま、絶句する。
「あ。今日都合悪い?」
いっそ、七海に全部言っちゃおうか。けいちゃんとあたしのこと、全部。
…でも。
「…ごめんね…。今日はちょっと用があって」
やっぱりもう一度、けいちゃんと話してからにしよう。七海に打ち明けるのは。整理のつかないままの気持ちを、七海に告げて、彼女にまで重荷を持たせたくない。
これは、あたしとけいちゃんのことだから。
「そっか、じゃまた今度」
七海はあっさり引き下がって、ひとりで帰っていった。
新しいクラスだからか、撤収は早くって、けいちゃんがいなくなってから10分もしないうちに、みんな帰っちゃって、あたしの他には誰もいない。
自分の席に座ったまま、あたしは教卓を見つめた。あたしの席との距離は2メートルくらい。遠いようで近い。近いようで、でも、遠い。
この距離に、慣れることが出来るのだろうか…。
突然、教室の扉がガラッと開いた。出入口に頭を屈めて入ってくるその人は…。
「けいちゃんっ」
思わず、あたしが名前を呼ぶと、けいちゃんは顔を綻ばせた。
「――先生、だろ? 春日」
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