先生≠彼【完】
♯4
ちょうど、お昼になるところだったから、ふたりでキッチンに立って、焼きそば作ることにした。
あたしがもやしのひげと根を取って、けいちゃんはキャベツや人参の具材を刻みながら、今朝のお母さんとのやりとりを話した。
「カレシいるの…バレちゃった。あ、でもガッコの先生とか、そういうのは言ってないからね」
「あはは、バレたら俺何されても文句言えないな」
軽快に笑ってから、けいちゃんはちょっと顔を曇らせた。
「後ろめたい思いさせてごめんね、千帆」
「…ううん。相手がけいちゃんじゃなくっても、そんな彼のこと親にペラペラ喋る子いないよ」
「そんなもん?」
「けいちゃん、話してた?」
「いや、俺は男だし…親にはあんまり」
「でっしょ〜?」
ポンポンと弾む話が嬉しくて楽しい。だけど、けいちゃんの爆弾発言で一気に流れが止まった。
「そういえば、俺、酒井に俺たちのことバラしちゃった」
…け、けいちゃん?
信じらんない、あたしがけいちゃんとのこと、みんなにバレないように細心の注意を払ってるっていうのに。
「え〜〜〜、何で、何でバラしちゃったの?」
あたしが詰め寄るとけいちゃんは。
「ばらした、って言うか、バレてたから認めたっていうか…」
「そこは最後までシラ切り通さなきゃダメでしょお。えー、どうすんの。酒井くんが学校とかにあたしたちのこと言っちゃって…一緒にいられなくなっちゃったら、どーすんの?」
あたしはもうサイアクの事態しか想定出来なくて。ぐずっと、鼻を啜る。
「それはないと思うけど」
「なんでっ」
「いや、酒井は千帆を困らせるようなことはしないかなって」
けいちゃんの慎重な物言いが、妙に引っかかった。もしかして。
酒井くんがあたしにした告白予告みたいのも、けいちゃんと酒井くんの間で話題になったりしたのかな…。
「…聞いた?」
「何を?」
薄笑いであたしの質問に質問返しするけいちゃんは意地悪だ。
「知らないならいいです」
酒井くんの告白は、断るつもりだし、けど、それを今ここでけいちゃんに宣言するのは、あたしばっかり好きみたいで、悔しい。
「千帆が言わないなら聞かないです」
絶対、知ってる! けいちゃんはさらっと流してから、ふと思い出したように眉を上げる。
「酒井よりもさあ…」
流し目でけいちゃんに言われて、ピンと来た。お母さんよりも、酒井くんよりも、もっと大きな問題があたしたちの前には立ちはだかってたじゃん。
「…沖本さん」
ふたりで声を揃えて叫んでしまった。
作った焼きそばを食べながら、ふたりであたしの誕生日にあったことを話し合った。おみやげやさんの一件から、あたしが彼女に会って指輪投げられたことも、けいちゃんにキスを迫ったことも。
「沖本さんもあの日、誕生日だったんだ…」
だとしたら。彼女は彼女で、とんでもないバースデーだったことになる。自分の片思いの相手が、彼女に贈った指輪。自分だって同じ日が誕生日なのに…と、孤独感と絶望感があんな暴挙に走らせたのだとしたら。
「ちょっと気持ちわかるかも…」
「千帆は優しいね」
あたしの同情は却って彼女を惨めにさせるかもだけど、逆の立ち場だったら
「あたし、そっちよりけいちゃんにキス迫った方が許せない…ねえ、ホントにしてない?」
食べ終わった焼きそばのお皿を脇にずらして、あたしはテーブルに身を乗り出して、けいちゃんの顔を覗き込む。
「もちろん」
「でも。彼女がけいちゃん突き飛ばさなかったらしてたんでしょ?」
「俺、千帆との以外はキスとしてカウントしないから」
「じゃ、何になるっていうの?」
「不運な唇同士の接触事故」
「何、それぇ〜、やっぱりしたんだ。けいちゃんの浮気者。嫌い、あっち行って」
「してないよ、言葉のアヤだって。」
そう言ってけいちゃんは、あたしにキスをした。千帆としかしない。その言葉を裏付けるみたいに何回も。
そして次の日から、また通常の学校生活が始まった…わけもなく、またいろんな問題にあたしたちは巻き込まれることになる。
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