先生≠彼【完】
#6
今日はエイプリルフールだったから、最初はけいちゃんがあたしをからかってる嘘かと思った。
次に嘘だったらいいな、って願って、けいちゃんの次の言葉を待った。
だけど、あたしの縋るような視線から、けいちゃんは気まずそうに目を逸らして、あたしに謝る。
「…だって。ごめん、千帆」
真実だと証明するために見せられた内示の紙には、あたしが通ってる高校に、けいちゃんが赴任するってことが書いてあった。
けいちゃんとあたしが、同じ高校の先生と生徒になるってこと?
「ど、どうすればいいの?」
あたってしまったサイアクの想像。倫理的道徳的にまずいだろ、ってことはわかる。ううん、法律的にもアウトかもしれない。
「い、今のうちに別れる?」
別れ、って言った瞬間に、自分の言葉に反抗するように、あたしの瞳から一筋涙が伝う。嫌だ、嫌だよ、けいちゃん。
けいちゃんはあたしの涙を指先ですくってから、困ったように顔を歪めた。笑ってるようのも泣き出しそうにも見える顔。
「まさか同じ学校になるとはなあ。ちょっと俺も混乱してて、今は何も千帆に言えない、ごめん」
「…うん」
「でも、千帆と別れたいとか別れようなんて思ってないから」
けいちゃんの鼻先があたしの鼻先にぶつかる。あたしのカップと同じシルエット。
でも、あたしとけいちゃんの鼻はミッキーとミニーほど高くない。すぐに、触れ合う角度が変わって、お互いの唇が重なりあう。
いつもは恥ずかしくて、あたしの舌に絡みつくけいちゃんの舌に、あたしは遠慮がちに応えるだけなんだけど、今日は、今だけは。
恥ずかしさより、けいちゃんが好き、って気持ちの方が強くなった。けいちゃんの首に腕を巻きつけて、舌を絡め合って吸い合う。
「好きだよ、千帆」
キスの合間のけいちゃんの囁き。あたしを舞い上がらせるはずのその言葉が、却ってあたしを悲しくさせた。
あたしも好き。でも…。
結論を出さないまま、その日はバイバイした。
けいちゃんが送ってくれる、って言うのを拒絶して、あたしは線路沿いの道を泣きながら帰った。
始業式の日まで、けいちゃんからは何も連絡がなくて、あたしからもしなかった。忙しいのかもしれないし、あたしとの距離を置きたいのかもしれない。
どっちでも、どうでも、良かった。
あたしが次に、けいちゃんに会ったのは、始業式の日、あたしのクラスの担任として、壇上で挨拶する時だった。
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