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先生≠彼【完】
♯5

何でどうして、バレたんだろう。不思議に思ったあたしに沖本さんはくすっと笑う。


「わたし、偶然見ちゃったの。遠藤先生がこれ持ってる」
「……」
「袋から出して、空にかざして遠藤先生、すごく照れくさそうな、でも幸せそうな顔してた。
遠藤先生の手にあった指輪がどうして春日さんが持ってるの。
選択肢は3つしかないよね。
偶然、同じものを持ってるか、遠藤先生のを春日さんが盗んだのか。――遠藤先生が、春日さんにあげたのか…」

出された選択肢には答えなかった。だって、彼女はとっくの答え見つけてる。


「――返して。あたしの彼が誰だろうと、その指輪が誰に貰ったものだろうと、あなたには関係ない」
「どうしよっかなあ」

小さな輪っかを沖本さんは親指と人差し指でつまんで、空にかざす。晴れてた空が急に、暗く黒くなった。


「本当のこと言ってよ。遠藤先生と付き合ってるんだよね?」
「言いたくない」
「それって認めたも同じじゃない?」

彼女の決めつけに首を横に振って否定する。けど、もう聞く耳持ってはくれなかった。


「何処がいいんだろ、貴女なんかの」

沖本さんの顔が歪んだ。意地悪く笑ったように見えたそれは、もしかして泣くのをこらえてただけなのかもしれない。


「大っ嫌い」

一言だけ吐き捨てると、彼女は振り向きざま、手にしてた指輪をポーンと放り投げた。小さな指輪は空中にキラっと光って、放物線を描いて坂の下に落ちていった。


けいちゃんがくれた、あたしの、指輪。


「……」

あたしは手提げのトートバッグを放り投げて、低い階段をもどかしく思いながら、落ちた指輪を追って駆け下りる。


「盗まれるといけないから、バッグ持ってってあげるねえ。あと、遠藤先生にも知らせておいてあげる」


親切ごかしの彼女の台詞が投げられたけど、あたしの意識には入ってこなかった。




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あきゅろす。
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