先生≠彼【完】
♯4
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けいちゃんに、早く逢いたいな。
次は美術館に向かうというみんなと別れて、あたしは集合場所の駐車場に戻ることにした。集合時間にはまだ間があるうちに行けば、ちょっとくらい話せるかな。そんな期待から。
「なんでぇ、春日」
不満そうに口を尖らす酒井くんには、ちょっと頭痛がするからとごまかした。
「いいの?」
「うん。ちゃんぽん食べたし、市電も乗ったし、満喫した」
「ひとりで平気?」
「平気」
心配そうな七海に笑顔を向けて、酒井くんたちと違う方向に歩き始める。長崎の細い坂道を路面電車の駅に向かって降りていたら、バッタリと沖本さんに会った。
人同士がやっとすれ違えるくらいの細い道。沖本さんは何故か、真ん中につったって、あたしに笑顔を向けてきた。待ちぶせでもされてたみたい…。
「あれ、春日さん」
「あ…ども」
また何か言われそうで、思わず半歩身を引いた。
「ねえ、春日さんて今日お誕生日って本当?」
「え…?」
何処からそれを。あ、そういえばさっきお店にいた子、沖本さんのクラスだった…。
「私の誕生日も今日なんだ。だからこれ…」
と、沖本さんがあたしに見せつけてきたのは、今朝けいちゃんと選んでたストラップだった。
「遠藤先生に買って貰っちゃった」
「あ…そうなんだ」
え。けいちゃんが個人的に生徒にプレゼントとかするかな。沖本さんの話を怪しいと思ったけど、その疑問は口にしなかった。
「ねえ。この間、春日さんが持ってた指輪って、もしかしてカレシからのプレゼント?」
「う、うん…」
「もう1回見せてくれない? わたしもそんなアクセ贈ってくれる彼、早く欲しいんだ」
だったらけいちゃんに付きまとわない方が早いような気が…。あたしのこと抜きにしても、先生と生徒、ってやっぱり恋に発展しにくいんじゃないかと思う。そして。
発展したって、秘密の重みのストレスに、すぐに自分の気持ち、見失いそうになるし、言いたいことなんて言えないことの方が多いし…相手がけいちゃんじゃなかったら、あたしだってとてもやってられない。
憧れと恋は、違うよ。
複雑な思いを抱きながら、あたしはポケットの巾着を取り出す。しぶしぶ渡した指輪をじぃっと見てた沖本さんは、ふいに真剣な顔で、あたしを問い詰めた。
「これ…誰に貰ったの? 春日さん」
「誰って…彼」
「春日さんの彼って、名前は? 年は? 大学生だよね、何処の大学? 専攻は? 写真、ある?」
矢継ぎ早にされる質問に、答えることは出来ない。…フェイクのカレシの情報を作っておけばよかったと、唇を噛んだ。
無言のままのあたしに、沖本さんは確信ありげに言った。
「春日さんの彼、遠藤先生なんじゃないの?」
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