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先生≠彼【完】
♯1

自由行動は結局あたしと七海。酒井くんと金子くんと広川さん、それに広川さんの友達の吉田さんの6人で回ることになった。

完全当て付け。けいちゃんの顔をロクに見もしないままバスから降りた。


「昼はちゃんぽん食って、あと角煮まんじゅうも食ってみたい。おみやげにカステラ欠かせないよなあ」
「…食い倒れツアーだったの?」
「なことねえよ。さっき、ナントカカントカって教会行ったじゃん」

料理の名前は正確なのに、行った観光場所の名称はうやむや。酒井くんとあたしの会話に、前を歩いてた金子くんと広川さんがくすくす笑った。


オランダ坂の途中の洋館を見て、近くの教会。坂から見える海がキラキラ光る異国情緒あふれる街。ここをけいちゃんとふたりで歩けたら、素敵だっただろうなあ。


「春日」
「な、何?」
「次は春日のために行く場所だから」

地図アプリを丁寧に確かめながら、酒井くんが向かったのは、何処にでもありそうな普通の洋菓子店。店頭にショーケースに入ったケーキが並んでて、奥にカフェがある。販売してるケーキは中でも食べられるみたい。


あたしたちは窓際の海が見える席に通されて、ウエイトレスのお姉さんは6人が座るとreservedのプレートを外した。え?


酒井くんも金谷くんも七海まで、あたしの方を見て、ニヤニヤしてる。そして、店内の照明が消されて、おなじみのハッピーバースデーのメロディが流れてきた。周りのお客さんまでこっちに注目してる。


小声で七海たちの歌ってくれた「ハッピーバースデー…」の歌が、ラストに来たところで、さっきのウエイトレスさんが、ケーキを持ってきてくれた。ちゃんと大きいロウソクが一本、小さなロウソクが八本、子どもの時みたいに名前入りのプレートまでついたバースデーケーキ。


「え? え? え?」

予期せぬサプライズにあたしは言葉も無い。


「春日、お誕生日おめでとう」

酒井くんが笑顔で言ってくれて、ロウソク消せって目配せする。は、恥ずかしいな。けど、ケーキのクリーム溶けちゃうよね。慌てて大きく息を吸い込んで、ふぅーってしたけど、一気には消えなかった。消え残りのロウソクに息を吹きかけるあたしを見て、みんなが笑う。

あたしも嬉しくて、ふふっとつられて笑ったら、いちばん手前の炎が消えた。その瞬間に、パチリ、と店内の照明がついた。あ、同じ学校の子もいたんだ…隣のクラスの女の子の姿に、今更気がついた。


お店の人が写真を撮ってくれて、人数分にケーキを切り分ける。その間に人数分の紅茶が用意された。あったかくて美味しくて、心までほっこりした。


「すごいね、こんな旅先でバースデーケーキ出てくると思わなかった。七海ありがと」

ケーキを食べながら言うと、七海が手を右手を小刻みに振って、違うと否定する。え? 七海じゃないの?


「店のセレクトも予約も全部酒井だよ、やったの。わたしも朝聞かされて驚いたもん」
「え?」

七海が暴露すると、金谷くんに脇を小突かれて、酒井くんはよせよお、と言いながらニヤニヤしてる。…ホントに、酒井くんがお膳立てしてくれたの?


「ありがと」
「い、いや、気にすんなよ、これくらい」

なんか酒井くんには面と向かってお礼が言いにくい。あたしが俯きながら言うと、酒井くんまでちょっと赤面してテーブルに目を落とす。

ケーキを食べたら、金谷くんと広川さんは店頭で売ってた洋菓子が見たいと言って、七海と吉田さんはトイレだと言って、席を立ってしまった。ふたりきりになったそのタイミングを見計らったように、酒井くんが切り出した。


「俺さ。ホントは春日に言おうと思ってたことあったんだ。ホントは今日も、ふたりで回ろう、って誘いたかった」





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